素材はいいのに迷走の連続「オリバーな犬」 名優を集めたオダジョーの人徳はすごいけど

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 寒天やゼラチンは分量をそれなりに守らないとうまくいかない。豪華にしようと欲張って、酵素や酸味の多い果物を入れると固まらないし、焦って煮切らないと固まらないわダマができるわで。なんかそんな印象。オダギリジョーが脚本・演出・出演した「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」の話だ。タイトルからして過多。やりたいこと、撮りたい要素や構図、出てほしい役者、有り余るエネルギーと欲望が過多。その割にたった3話。ある部分はゆるすぎて固まらず、ある部分はダマになって口の中に残る。材料は相当豪華なのになぁ。

「時効警察下ネタ編」というか、エロバカが大好きな昭和の小学生コントというか。ズボンの尻部分が破けるとかボインちゃんとか。オダジョーはすっかりおじさんなのかと悲しくもなる。

 なによりもセリフが思った以上に古い。執拗な繰り返しと、変な間は残すものの想像を絶するつまらなさ。鈍器やバールのようなものという言葉へのモヤモヤも、脚本家や翻訳家が既に書き尽くしたネタという印象だ。かなり前に書いたのかしら。

 画面分割して数台のカメラで追いたかったのね、わざとぼかして横に撮りたかったのね、等身大パネルを使って時間経過を見せたかったのね。もうやりたいことが剛速球かつランダムに投げ込まれてくるけれど、ストライクがひとつもない。

 この暴走の背景を邪推してみる。着ぐるみのオダジョーとはいえ、警察犬の話。皆様のNHKだから、もしかしたら事実関係の確認とか考証が異様にうるさかったのか。だから思いっきり馬鹿げたコメディに振り切り、「細かな考証が必要なほどの内容ではありません」と逃げた結果がコレとか?

 罵詈雑言を並べたけれど、オダジョー作品にこぞって出演する俳優陣は非常に魅力的だし、オダジョーの人脈というか人柄に呼応したのだとしたら、オダジョーは恐るべき人たらしである。

 そういえば長編映画初監督作「ある船頭の話」は長尺だが、迫力と見ごたえのある秀作だった(柄本明最高!!)。この映画と出演者もかなりかぶるので、オダジョーの人徳説は信じてよいと思う。

 内容は、慢性鼻炎だが優秀な警察犬・オリバーの話。犬なのに、ハンドラーの池松壮亮だけには着ぐるみのスケベなおじさんに見える。それがオダジョー(この設定は好き)。警察犬がうっかりいろいろ発見しちゃって、オレオレ詐欺事件と少女失踪殺害事件に繋がる。

 また人物が大量なの。ヤクザ(派手なセーターの松重豊)、半グレ(口調が往年の金子信雄風の永山瑛太)、スーパーボランティア(志茂田景樹風の佐藤浩市)、謎の老人(橋爪功)に謎のホームレス(柄本明)、元警察官でフリーライターの永瀬正敏……って有り余るほどの名優陣。麻生久美子の空気読まないキャラは定番だね。あ、我修院達也もいいよね。

 こんだけの名優・アーティストをNHKに集めてノワールコメディに仕立てた無謀さと気骨は称えたいので企画は続けてほしい。キャスティングも最高なので、脚本だけ本職に任せてみるという案はどうでしょう?

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年10月14日号掲載

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