岸田首相と“宏池会シンパ”の枝野代表は同類? 国会審議で見えてきた決定的な違いとは
枝野氏の「冒険的な」分配政策
一方の枝野氏は、幅広い分配政策に具体的な金額を盛り込んで違いを際立たせています。「低所得者に年額12万円の現金を給付」、さらに「年収1千万円程度までの個人の所得税1年間無税」に踏み込みました。年収1千万円以下というと給与所得者のおよそ95%、つまりほとんどの国民が所得税無税になります。さらに「消費税率の5%への引き下げ」、「最低賃金は時給1500円を目標に段階的に引き上げる」としています。立憲民主党議員は「極めて冒険的な政策だ」と話しています。
一方、財源となる富裕層への課税強化策としては、「所得税の最高税率を50%に引き上げる」ほか、岸田首相が封印した金融所得課税については現行の20%から「30%を視野に、再来年度までに25%まで引き上げる」としています。ただこうした施策だけでは分配政策の財源が足りないのは明らかで、実現には大規模な国債発行が必要となるでしょう。
枝野氏は周辺に「今は100年に一度の緊急事態なんだから、これくらい思い切った対策は必要だ」と胸を張っています。しかし立憲民主党内からも「大盤振る舞い過ぎて有権者に本気と思われない。消費税や所得税に手を付けて一体いつどのように戻すのか」などと異論も出ています。
こうした与野党で「分配」を競う姿勢は、先日、財務官僚のトップ・矢野事務次官が指摘したように「国を危うくするバラマキ合戦」(「文藝春秋11月号」)なのか。それともポストコロナ時代の経済浮揚に必要な果断な政策なのか。国民的な議論が必要です。
岸田政権は対中国シフト
「軽武装、経済重視」を掲げた宏池会の流れを汲む岸田首相には「ハト派」のイメージがありますが、所信表明で随所に見られたのが中国への警戒感と対応策です。
特に甘利幹事長の肝いりで担当大臣まで新設して取り組む「経済安全保障」は、一言でいえば「軍事力を使わない戦争」と称される中国の経済覇権主義に対抗していくための政策です。技術・情報の流出を食い止め、資源を安定的に確保し、中国抜きでも自律的に経済を回せるサプライチェーンを構築していく狙いです。
また実際の防衛力についても所信表明で「海上保安能力やさらなる効果的な措置を含むミサイル防衛など防衛力強化に取り組む」と話しています。首相側近議員は「岸田さんは中国艦船に対応する海上保安庁に武器使用を認めることや、敵基地攻撃能力の獲得も念頭に置いている。経済安全保障も含めた中国への対抗策は、誰が政権をとっても日本の最重要課題の一つだ」と語っています。
その一方、岸田氏は所信表明で「核兵器のない世界に向け全力を尽くす」と宣言しました。広島出身の岸田氏ならではですが、中国や北朝鮮のミサイルの脅威にさらされ、日米同盟に頼っている現状でその道筋が見えないのが現実です。代表質問で枝野氏に「核兵器禁止条約締結国会合へのオブザーバー参加」を促されましたが、「条約には核兵器(保有)国は一か国も参加していない」として提案を否定した上で、「米国の信頼を得た上で共に前進していきたい」と述べるにとどまりました。
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