地域を活性化させる「質的価値」を創造する――野並 晃(日本青年会議所会頭)【佐藤優の頂上対決】
会社経営者の2代目、3代目を中心に、次代を担う若きリーダーたちが集まる青年会議所。全国に約700あるが、その統合調整機関である日本青年会議所が創立70周年を迎えた。今年の会頭は横浜「崎陽軒」の4代目。彼らは日本の現状をどのように捉え、どんな活動をしているのか。
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佐藤 外務省時代、私は北海道の青年会議所(JC)の方々と何度かお仕事をしたことがあります。JCは北方領土問題の啓発に取り組んでおられますよね。
野並 はい。今年も7月に根室市で北方領土返還要求現地視察大会を開きました。私も現地を訪れ、挨拶をさせていただきました。
佐藤 札幌、東京と、現地から離れれば離れるほど、返還運動は観念的になっていきます。ですから、現地に行くことは非常に大切です。根室にとってはやっぱり経済なんですよ。四島交流をやって経済を活性化させたい。その雰囲気を知っておくことはすごく重要です。
野並 大会では、石垣雅敏・根室市長からもビデオメッセージをいただきました。
佐藤 JCはかなり古くから返還運動を展開していますよね。
野並 1970年に第1次北方領土現地視察団を派遣したのが始まりで、今年は52回目になります。1999年には納沙布(のさっぷ)岬に、返還運動を推進していく旨を記した「北方領土返還運動現地大会決議文」の碑を立てさせていただきました。それから全国規模で活発に動き出したという感じですね。
佐藤 私は根室と釧路、それに中標津(なかしべつ)のJCの方々のお手伝いをさせていただきました。
野並 現地交流ですか。
佐藤 ええ、現地交流や北方四島のインフラ整備に関する助言ですね。釧路JCの方は中古車業者で、向こうの行政からの求めに応じて中古のランドクルーザーを何台か島に送ったんですね。でも現地に行ったら見かけない。それで私に「どうなっているんだろう」と相談に来たんです。
野並 そんなことがありましたか。
佐藤 こういう時はだいたい島の有力者が私物化して乗り回しているか、売られてユジノサハリンスクあたりまで渡っているかなんですよ。だから「車体に大きくJCからの寄贈品であることを書いて、定期的にチェックした方がいい」とアドバイスしたことを覚えています。
野並 ありがとうございます。
佐藤 それから、北方領土問題には富山県の黒部JCも熱心ですよね。
野並 はい。黒部から四島に移住された方が多いと聞いています。
佐藤 次代を担う若いリーダーたちが集まるJCは、こうした社会問題に目を向け、取り組む場となっていますが、そもそもはどんな成り立ちなのですか。
野並 青年会議所は、1949年に「明るい豊かな社会」の実現を掲げて、東京青年商工会議所が誕生したのが始まりです。これに共感した人たちによって全国各地に次々とJCが作られ、1951年には全体の統合調整機関である日本青年会議所が設立されました。今年はそれから70周年になります。
佐藤 つまり野並さんは、第70代会頭になるわけですね。いま、JCは全国にどのくらいあるのですか。
野並 LOM(Local Organization Member)と言いますが、全国に691のLOMがあります。この日本青年会議所は、それらから出向してくる人たちで成り立っています。
佐藤 会員は40歳までですね。
野並 はい。40歳の12月31日に卒業となります。JCは青年の真摯な情熱を結集して社会貢献することを目的としていますから、常に組織を若々しく保つことになっています。基本的に、20歳から40歳未満の品格ある青年であれば誰でも入れます。
佐藤 ただ、実際には企業経営者の2代目、3代目の方々が多いでしょう。
野並 そうですね。私自身、横浜の崎陽軒の4代目ということになりますし、いずれ会社を継ぐことになる人たちは多いですね。またすでに自身がトップになっている方たちも大勢います。私は会社では専務というナンバー2の立場ですから、トップとして会社を経営しながらこの活動に取り組んでいる方はすごいと思いますね。それに公認会計士や弁護士など、士業の方も一定数います。
佐藤 みなさん、その中でリーダーシップを学んでいかれる。
野並 はい。当然ながらリーダーシップは一通りではなく、力強く引っ張っていくものもあれば、なるべくみんなに任せるようなやり方もあります。今年は野並晃のやり方をさせていただいていますが、組織内では多様なリーダーシップを担保していかなければいけない、と考えています。
佐藤 政治家への登竜門という側面もありますね。
野並 政治家にJCの先輩はたくさんいらっしゃいます。麻生太郎財務大臣(当時)をはじめ、菅内閣の閣僚の半分以上はJC経験者でしたし、小泉進次郎さんは横須賀JCの現役の会員です。
佐藤 小泉さんは政治家という職業で会員になっているわけですか。
野並 そうです。それから世代が近いところでいえば、自民党青年局長の牧島かれんさんは小田原のJC出身です。
佐藤 国会だけでもそれだけいるのでしたら、地方議会はすごい数になるでしょうね。
野並 現役の県会議員、市会議員もいますね。私の出身母体である横浜JCにも現役の横浜市議がいますし、他の地域で、これから市長選に出ようとしている先輩もいます。やはりJCの活動を通じて地域のネットワークができますから、そこをうまく活用しているようです。
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