四冠へ好発進 藤井聡太の将棋が大鵬の相撲に似てきた

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「一強時代」への懸念

 仮に藤井が豊島を下して四冠となれば、事実上の「一強時代」と言ってよい。ただ、心配もある。

 再び、相撲談義で恐縮だが、ライバルの横綱柏戸が先に衰え、横綱佐田の山がいたとはいえ力量差はあり、事実上の大鵬の「一強時代」になると少し相撲人気が落ちたように思う。将棋界では昭和時代、ライバルの升田幸三名人が先に衰え、大山康晴(十五世名人)の「1強時代」になると、1970年代に入って中原誠(十六世名人)が登場するまでの間、将棋人気が落ちたような記憶がある。若く端正な風貌の中原が憎たらしいほど強い大山から名人を奪い話題沸騰。筆者の西宮市の高校でも将棋が大流行、授業中も先生の話など聞かずに「紙将棋」を回していたものだ。やはりスターに好敵手の存在は欠かせない。

 気が早すぎるかも知れないが藤井が豊島、さらに渡辺王将を下して五冠も取り、将棋人気が落ちるほどの「1強時代」になるのか。

 現在藤井のライバルは30歳前後の棋士が多い。しかし、彼らが衰えていけばどうなるのか。残念ながら藤井には「同世代のライバル」と呼べる棋士がいない。

 さて、「最後の砦」ともいえる豊島は藤井と同じ愛知県の出身だが、父は大阪で弁護士を開業しており、豊島本人は兵庫県尼崎市で暮らしている。まずは関西の将棋界の期待を背負って若武者に立ち向かう(豊島も若武者だが、もう「とよぴー」とか「きゅん」とかの可愛らしいニックネームは似合わないのでは……)。

 とにかく豊島将之竜王の奮起に期待したい。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月11日掲載

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