四冠へ好発進 藤井聡太の将棋が大鵬の相撲に似てきた

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 藤井聡太三冠(19)=棋聖、王位、叡王=がついに、昨年まで6連敗だった「天敵」豊島将之竜王(31)との公式戦の勝敗を9勝9敗のタイにした。(粟野仁雄/ジャーナリスト)

 10月8、9日の両日、東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂で、一部公開で行われた注目の「竜王戦七番勝負」の第一局。藤井三冠が神経戦を制して先勝した。

 優勝賞金4320万円の最高額、名人戦と並び「最高峰」とされる竜王戦に挑戦する藤井はここで四冠を目指すが、もはや、「史上最年少」などの冠言葉は陳腐な印象だ。

 一方の豊島竜王はこの夏、藤井にフルセット5番勝で叡王を奪われている。「藤井が唯一勝てない棋士」だったはずが、気が付けば次々にタイトルを奪われかねない状況に追い詰められている。豊島は2019年に広瀬章人竜王(34)から竜王位を初奪取、昨年は挑戦者の羽生善治九段(51)を破って連覇しており、3連覇を狙う。しかし、負ければ一時の「三冠」から一挙に無冠に落とされるため、まさに「背水の陣」である。

 第1局の先手は藤井だった。最近、藤井が「豊島対策」として最も練ってきたといえる「相掛かり」(互いに飛車先の歩を前進させて戦う戦型)。

 豊島が巧みな差し回しで応じ、AI(人工知能)は七割がた豊島優勢の評価値を出していた。藤井は金を中央に繰り出すが、豊島の竜の「横効き」などで思うように活躍できない。対局では大駒同士が早々と交換され、藤井が角二枚、豊島が飛車二枚の形になっていた。ちなみに筆者などの素人将棋では使い方の難しい角二枚より、飛車二枚の方が威力を感じるものだ。それが理由ではないだろうが、藤井は中盤、苦しんでいた。藤井の角は働きにくい位置にあり、繰り出した金も動きづらい。自玉の守りは危なっかしく、大胆な攻撃もしにくかった。

 AbemaTVの中継で解説していた飯島栄治八段も「豊島さんが優位ですね」と見ていたが、解説を交代して終盤に戻ってきたら形勢が一挙に藤井に傾いていて「うわっ、逆転していますね」と驚いていた。

 豊島が大きな失着をしたわけでもなく、藤井が「AI超え」などと称賛される「仰天の妙手」を出したわけでもない。それでも終盤、徐々に豊島は追いつめられてゆく。互いに攻め合い、午後7時半前、藤井が「3四桂馬」で王手をかけると、豊島が盤に手をかざして投了した。藤井は「自信の持てない局面が長く続いたのですが、粘り強く差すことはできたのかな」と話した。言葉通り藤井は「AI超え」などの妙手はなくとも、決して悪手を指さず粘り強く戦っていた。

 敗れた豊島は「なんとか互角を維持しようと思っていたが悪くなっていった。集中して差すことはできた。(第2局は)気落ちを切り替えて臨みたい」などと話した。終盤に入っても優勢には違いなかったようだが、これといった決め手が見つからないうちに藤井にじわじわと形勢逆転され、悔しさが滲んでいた。

 二日制の竜王戦の持ち時間は8時間と長い。豊島は初日の最終手番となる封じ手「8四飛車」に88分もかけた。対する藤井は二日目になって、中盤で動きを封じられていた金を「6六」に動かすのに79分使う場面があった。藤井にとってはもっとも苦しい局面だ。これで両者の持ち時間はほとんど同じになった。しかし、豊島は最後に持ち時間を消費して秒読みに追われ、一方、藤井は秒読み将棋に入る寸前に勝負をつけた。

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