パリ郊外で農園経営25年の山下朝史さん 値段10倍の野菜を高級レストランが求める理由
文化が安全保障を担保する
野菜づくりから、水産、刃物、そして次世代育成……山下さんのすべての行動には共通したひとつのテーマがあります。曰く「日本の文化が、日本の安全保障を担保するのです」。どういうことでしょうか。
「フランス、パリの高級レストランは世界中から注目されています。そのような場所で、たとえば活け締めという日本の技術が浸透すると、フランスのみならず、世界から日本文化への理解が深まります。日本文化に造詣の深い人は、日本に好意的ですよね。だから日本が持つ伝統や高い技術をもって文化交流を深めれば、ひいては日本の平和につながると思うのです。
フランスに限らず、テロ事件が起こるたびに、世界平和のために何かしないと、と多くの人がいいますよね。私たち個人がまずできることは、自分が接する両隣の人に誠意を尽くし、仲良くすることではないでしょうか。隣人にはまたその隣人がいます。隣人同士の小さな仲良しの輪があちらこちらにできれば、小さな輪がくっついて大きな輪になっていきます」
日本が評価され、文化が受け入れられ、溶け込むことで、日仏友好のみならず、日本の安全保障につながる。それはそれぞれの努力でできることだと、山下さんはいいます。
「おいしいと思われる野菜をつくるということもそのひとつ。私は農園の25周年を特別だと感じてはいません。日々淡々と同じ作業を継続してきた延長線上に今があると思っています。継続は力なりではなく、継続していることを力に変えていく。私が大切にしているのは『1万歩を歩き続けられる一歩で歩んでいくこと』です。大き過ぎる歩幅で歩くと、その後が小さくなってしまったり続けられなくなったりします。だから私は困難にも抵抗しないし、やすきに流れることをよしとします。もちろん努力するのは大前提で。期待に応え、期待を超える野菜をつくるけれど、無理して農園の規模を大きくしたりはしません。脱力感も必要です」
現在は、農園のあるシャペ村が、山下さんの名前を冠した農業アカデミーの設立を計画しています。
フランスの著名な野菜の作り手でありつつ、「日本の文化が担保する、日本の安全保障」の追求が活動の軸にある山下さん。その根本的な思いこそ、私たちが見習うことができる「成功への道」ではないかと思います。
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