パリ郊外で農園経営25年の山下朝史さん 値段10倍の野菜を高級レストランが求める理由

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シェフも絶賛

 野菜を「自分の子ども同然だと思っている」と語る山下さんは、卸しも自身で行います。レストランへの配達に同行した際、山下さんを見つけたシェフたちが料理の手を止め、笑顔で迎え入れていたのが印象的でした。コーヒーを振る舞われ、厨房中の料理人たちが山下さんの野菜を囲んであれこれ話し始めるのです。

 パリのひとつ星レストラン「Fleur de Pavé」のシルバン・サンドラシェフは、

「山下さんの野菜は格別です。野菜は肉や魚の付け合わせだと思われがちですが、彼の作る野菜は逆。野菜が主役で、肉や魚が付け合わせになるんです」

 実際、山下さんの野菜は、見た目からして普段スーパーやマルシェで売られているものとはちがいます。形や大きさがとても立派で、口にすれば苦味や酸味が少なく、果物のようなあまみがあふれます。しっかりした歯ごたえもあり、シェフの“格別”という評価もうなずけます。

「ナヴェ」ではなく「KABU」

 さながら野菜を介して行われる文化交流です。フランスと日本という、それぞれ優れた食文化をもつ国の人間同士だから、通じるものもあるのかもしれません。

「本当の文化交流というのは、相手に受け入れられ、向こうの文化と混ざり合って浸透することだと思っています。国際展示会や見本市でお披露目するだけでは、道半ばですね。文化交流には3つのフェーズがあると思っています。

 私の場合、フランスのレストランに野菜を売り始めた第1フェーズでは『日本は、日本の野菜は…』と、日本であることを繰り返し語っていました。現在は第2フェーズです。私があまり言わなくても、取引先のシェフや料理人たちの方から『日本の野菜』と周囲に語り広めてくれています。カブはフランス語で『ナヴェ』と言いますが、私が日本名のKABUと呼んでいることから、徐々にメディアでもKABUという名前が広がってきました。これもそんな浸透の表れですね。次に目指す第3フェーズはわざわざ『日本』であることを誰も気にしなくなり、一般の人たちの間にも溶け込んでいる状態だと思っています」

 フランス人が、日本の文化を通して自国の文化を見つめ直し、そしてフランス文化そのものが発展していく――山下さんは、そこに自分がお役に立てるなら、という思いで野菜づくりをしています。

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