折り目正しい柳生十兵衛を演じた西城秀樹 千葉真一は制作発表で「この役は君に譲った!」

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幻となった大河主演

 そして、いよいよ時代劇で初主演したのが、92年の「徳川無頼帳」(テレビ東京系)だった。徳川三代将軍家光(志垣太郎)の時代。江戸・吉原を舞台に、謎めいたふたりの風来坊が、うごめく悪人や陰謀と闘う。

 風来坊のひとりは、家康の六男で家光の叔父の松平忠輝。もうひとりは、徳川家の剣術指南役の座を追われた柳生十兵衛(西城秀樹)。ふらりと吉原に現れた十兵衛は、美形の花魁・浮橋太夫(成田和未)に心惹かれたが、太夫の側には廓幻之介(千葉真一)という男がいた。ふざけた名を名乗ったその男こそ、実は江戸最大の遊里に潜伏する忠輝。家光は、影の者たちに忠輝を抹殺させようとしていたのだった。「人はこのわしを鬼っ子と呼んでおる」という幻之介と、柳生一族のはぐれ者十兵衛は意気投合。「ここは江戸であって江戸ではねえ」と語る豪儀な吉原の総名主・京屋庄左衛門(ハナ肇)ともに刺客たちと戦うことになる。

 映画「柳生一族の陰謀」、「魔界転生」、ドラマ「柳生あばれ旅」シリーズなどで長年、十兵衛を当たり役としてきた千葉は、制作発表の席で「この役は君に譲った!」と秀樹とがっちり握手。秀樹は、暴れん坊イメージの千葉十兵衛とは一味違って、折り目正しい印象の十兵衛となった。撮影現場が当時JACの本拠となっていた日光江戸村で、次々登場する敵方のアクションはものすごい迫力。十兵衛は高度な殺陣を求められた。「勉強することが多く、ヒデキじゃなくて刺激的な日々」とダジャレも披露している。

 80年代には大河ドラマ主役のオファーもあったという。それは実現しなかったが、シンガーとしても時代劇に参加している。95年の「江戸の用心棒II」(日本テレビ系)の主題歌「心の扉」だ。

 浪人姿の高橋英樹が悪を斬る!という痛快時代劇の王道路線。7話以降、エンディングにこの楽曲が流れたのだった。アーティストとしての功績はここでは書ききれないが、「寺内貫太郎一家」で共演した小林亜星さんに取材した際、「秀樹はシンガーとしての実力が桁外れ。もっともっと評価されていい」と何度も繰り返していた。「心の扉」は、作詞・荒木とよひさ、作曲・浜圭介、編曲・芳野藤丸。しみる大人の恋歌である。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月8日掲載

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