性欲全肯定のリアルラブコメ「来世ちゃん」 なんと好感のもてるドラマなんだ!

  • ブックマーク

 キスやハグは描くも、その先の一過程をすっ飛ばして妊娠や結婚を描く。これが日本のラブコメ標準となりつつある。その一過程は重要じゃないの? たかがセックス、されどセックス。登場人物の性的な観念や嗜好、生活における優先順位や人生における割合をまったく見せないのは「欠損」だと思う。別に行為そのものが見たいワケではない。濡れ場なんてむしろなくていい。いくらでもセリフで表現できるはずだが、言葉狩りに遭っているのだろう。

 そんなご時世で、バラエティに富んだ性的嗜好をしれっと盛り込み、例の一過程を実に丁寧に掘り下げて、人物描写の奥行を広げることに成功したドラマがある。「来世ではちゃんとします」だ。昨年のシーズン1でハマり、2も楽しんでいたが全8話は短すぎじゃない?

 主人公・大森桃江を演じるのは内田理央。5人のセフレを回すヤリマンだが、たまにクソみたいな虚しさに襲われる。寂しがりやで本当は愛されたい。ヤリマンって久々に打った。いい響き。性欲を肯定し、奔放な自分を卑下しない、割と健康的な性依存である。

 内田が勤めるのは、小さな映像(CG)制作会社「スタジオデルタ」。下請けゆえに激務でもあり、徹夜作業も当たり前。月給も手取り20万円弱、コンビニメシにアパート暮らしのヒロインだ。日本のラブコメは大企業かつ御曹司の登場が定番だが、そんな絵空事は皆無。下請け業者で薄給のヤリマンがそのへんの適当な男を日替わりで回して性欲を解消。なんとリアルで好感のもてるドラマなんだ!

 唯一ハイスペックなセフレAくん(塩野瑛久)を本気で好きなのだが、変態性欲のはけ口にされるだけの扱い。

 内田だけではない。同僚もいい感じで我が道を行く。BLオタクの高杉梅を演じるのは太田莉菜。美人で処女、男に好意をもたれるのが死ぬほど苦手なアセクシュアル。ゲイカップルの部屋の観葉植物になりたいと願うくらい欲望が超限定的。

 付き合った女性が皆メンヘラ化するヤリチン・松田健を演じるのは、小関裕太。とにかくモテるしヤリまくるが一切執着しない。冒頭で、嫉妬した女性に拉致監禁されるも、逆に1週間のヒモ生活をちゃっかり満喫。

 処女を妄信するセカンド童貞マッチョ・林勝(後藤剛範)は、隣人に恋をするも、ソープ嬢と知って後ずさり。悪い意味で頭もマッチョだが、女装男子(卒倒しそうなほど可愛いゆうたろう)に好意を寄せられてもいる。

 最も報われないのは、ソープ嬢に恋する檜山トヲル(飛永翼)だ。彼女に会うために給料の8割、会社に内緒で連載する漫画のギャラもほぼ全額つぎ込んでいる。

 それぞれの恋の行方がおかしくも切なく生臭く描かれるが、シーズン2の最大の見どころは内田と小関の関係だ。ヤリマンとヤリチン、手練(てだ)れ同士は暗黙の不可侵条約を結んでいたはずがうっかり社内恋愛へ?!

 新聞とウェブでは、削られるか婉曲表現で濁される言葉が山盛りのこの作品。書いておく。ヤリマン最高。「来世ちゃん」が好きという女には全幅の信頼をおくわ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年10月7日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。