常識破りの「在庫を多く持つ経営」はなぜ強いか――中山哲也(トラスコ中山代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】
リースしない会社
佐藤 中山社長は「独創経営」を掲げておられますが、こうしてお話をうかがっていると、まさにその言葉がふさわしいですね。
中山 誰もが思いつき、誰もが進む方向に成功の文字はありません。人の思いつかないことをやるのが鉄則です。
佐藤 在庫はその象徴ですね。
中山 在庫に限らず、「持つ経営」です。ひと頃、持たない経営がずいぶんはやりました。会社の寮も保養所も売れとまくし立てていましたが、いざ社員の採用が厳しくなると、福利厚生だ、保養所を持て、ということになる。我々は、コンピュータシステムも配送システムも全部自前で揃えています。在庫管理に重要な役割を果たす会社の大動脈ですから、当然のことです。また、コピー機や車もすべて買っています。だから弊社はリース料の支払いがゼロです。
佐藤 そこに一つの思想がある。
中山 言い換えると、やたらに減価償却が多い会社なのです。でもその償却の多さが企業体力につながります。いったんキャッシュアウトしますが、減価償却で引き戻せます。
佐藤 また、自分たちの持ち物だと、モノを大切にしますしね。
中山 在庫を揃えると、他にもいいことがあります。残業が減るんです。
佐藤 そうなのですか。
中山 在庫があればメーカーに発注書を書いたり納期を管理したりする必要がないでしょう。だから結局、時間短縮になる。
佐藤 なるほど。
中山 今後はその在庫をいかに早くお客様に届けるかが課題です。いまお客様からの受注の85%は人を介さず自動的に受けつけ、注文から納品まで、平均すると13時間50分かかっています。業界の中では十分に早いのですが、それをさらに10時間、9時間にしていく。このため、お客様から注文をいただいて配達するまでの過程を「見える化」しようとしています。
佐藤 その時、欠品はロスタイムになります。
中山 そうです。取り寄せすると時間がかかる。だから類似品検索をしてもらいます。在庫がなければ、同種の商品でハイエンドならこれ、廉価版ならこれ、とお客様に提案する。デジタルを使いながら細かく対応し、さらに早く商品をお届けできる仕組みを作っていきたいですね。
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