昭和の名建築「中銀カプセルタワービル」解体へ 140のカプセルはどうなる?
実感としては「都心の長屋」
「黒川さんはカプセルを『個人の空間』として使用することを想定していましたが、私の実感としては『都心の長屋』。私が尊敬を込めて『変人』と呼んでいるここの住人たちはデザイナー、カメラマン、映画ディレクター、編集者などクリエイティブ系の人たちが多いですね。部屋はオリジナルに近いままだったり、アンティークな内装や和室にリノベーションしたり、使う人によって変化していく。それこそが、『新陳代謝』なのでしょう。
住人とはライングループでつながっていて、『飲んでいるよ』と伝えると、『行く行く』と集まってきたり、誰かが『カレーできたよ』と言うと、皿を持ってもらいに行ったり……。カプセルの中は10平方メートルというミニマルな空間なので持ち込めるものが限られています。ですから、食べ物やお酒、布団乾燥機までお互いに貸し合っていましたね。保存・再生プロジェクトも、そんな付き合いの中から生まれたんです。私がハマったのは結局、『建物に引き寄せられてくる魅力的な人々』でした」
前田さんはカプセルで培われたコミュニティーを再構築させたい、と言う。
「私たちはカプセルファンを途絶えさせたくありません。ここで過ごしてこそ、その良さ、楽しさがわかるので、カプセルを様々な場所に移動させて、泊まれるカプセルの体験を多くの人とシェアしていきたいとも考えています」
「実は、取り壊しと言っているものの、正式に時期が決まったわけではありません。買取企業が建物を解体して更地にした後で、新しいビルなどを建設するのでしょうが、具体的な今後の日程が決まっていないのです。また、老朽化が激しいカプセルをきれいに外せるのかどうかも、まだわかりません。
まずは、『中銀カプセルタワーの記録(仮)』という書籍を来年2月に出版するので、その準備をしています。オーナーや住民の協力を仰ぎ、なるべく多くのカプセルの記録、図面などを掲載する予定です」
今夏、カプセルの改修や書籍の出版のためにクラウドファンディングも行われた。すると、7~8月の2ヵ月で目標の100万円を大きく超え、約770万円が集まったという。多くの人に愛された「中銀カプセルタワービル」。建物自体は解体されるが、様々な場所で残り続けることになる。