昭和の名建築「中銀カプセルタワービル」解体へ 140のカプセルはどうなる?
「雨漏りするけどおもしろい」
「また、一般の人向けに見学会を行ったり、短期賃貸マンションとして貸し出したりと、カプセルの魅力を伝えるイベントも行ってきました。コロナ禍以前には、海外の方も大勢、見学会に来てくれましたし、短期賃貸マンションとしては2017年から3年近く、多いときでは9カプセルを貸し出して、のべ200人ほどが利用してくださいました。彼らがインフルエンサーとなって『雨漏りするけどおもしろい』『住人が変』と、楽しく情報発信してくれ、手ごたえを感じていた矢先……」
新型コロナウイルスの感染拡大で、状況は一変してしまう。
「カプセル保存派のオーナーさんの中には個人事業主の方も多く、資金繰りのためカプセルを売却する人が出てきました。それにより保存派が減っていき、メタボリズムの実現も遠のいていった。私は管理組合の役員もしていますが、その立場では35年も大規模修繕を行っていない建物の安全性の問題を無視することはできません。2年前、立て続けに大きな台風が関東を直撃したときには、建物も大きなダメージを受け、今後、巨大地震が来たらどうなるかわかりません。140カプセルをすべて交換すると、数十億円の費用がかかってしまいますし、最終的には敷地売却決議に合意しました」
ハマっちゃいました
「現在はカプセルの保存・再生に舵を切り、買受企業と協議を行い、最大139のカプセルの取得に同意をいただきました。解体時に取り外したカプセルはプロジェクトが引き取り、黒川紀章建築都市設計事務所の協力で再生した後に、美術館へ寄贈したり、宿泊施設としてよみがえらせたりする予定です」
前田さんが最初にカプセルを購入したのは、2010年のこと。「ハマっちゃいました」と笑うカプセルの魅力は、建築物としての価値ばかりではなかった。
「初めてこのビルを見たのは、小学校の1~2年生のころでした。不思議なビルという印象が強く残っていたのですが、社会人になって銀座で働くようになり、中を見てみたい、住んでみたいという気持ちが強くなりました。たまたま2010年、カプセルのひとつが売りに出されていたので、400万円で衝動買いしてしまったんです。カプセルの売買価格は変動し、2007年にはアスベスト問題などで一度建替決議が出ると、100~200万円に下落しました。しかし、リーマンショックなどの影響で建替話が立ち消えになり、最後にカプセルが市場に出された3年前には、人気が上がって1000万円を超えていました」
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