心の病は食事で改善できる? 精神栄養学の第一人者が語る「最強の食事術」

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うつ病は自殺の主な要因

 まずメニュー、つまり「何を」食べるかの話に入る前に、「いつ」食べるかがいかに大事であるかを説明したいと思います。

 約1万2千人を対象に行った我々のアンケート調査では、朝食をほぼ毎日とっていると答えたうつ病の人の割合は健常者より低く、逆に間食や夜食をとる人の割合はうつ病の人のほうが多いという結果が出ています。これは、うつ病の人は生活リズムが乱れがちだということと関係があると思います。うつ病が生活習慣病であることを考えると、当然の結果といえるかもしれません。

 人間のパフォーマンスは、起床後数時間の間に最も上がります。その時に、充分な栄養を補給できていなければ、せっかくの「パフォーマンス向上時間帯」を有効に活用できません。

 また、朝起きて日光を浴びることで体内時計がリセットされますが、それに合わせて食事をすると、脳と身体をリフレッシュさせ、活動モードに入ることができます。

 こうした理由から、朝にしっかりと食事をとることがとても重要なのです。

 そこで次に、その重要な朝に何を食べるべきなのかを考えてみます。

 まず主食は、地中海食を意識して玄米などの精製していないお米や全粒粉のパンがおすすめです。ただし、カロリーは控えめにしましょう。

 そして、葉酸が豊富な葉物野菜や鉄分が摂れる海藻、そしてビタミンDが含まれるきのこ類など、具だくさんのお味噌汁やスープ。塩分は控えめにしてください。

 さらに、DHAやEPAを含んだ魚、亜鉛が摂れる大豆、アミノ酸を摂取できる卵などを使ったおかず。

 デザートとして、果物を入れたヨーグルトなどの乳製品。

 最後に、ポリフェノールの一種であるカテキンが摂れるお茶やクロロゲン酸が含まれるコーヒーを食中や食後に1杯。

 これらをバランス良く摂取するのが理想的な朝食です。

 うつ病の人はこれだけのメニューを自分で作るのは困難な場合もあるでしょう。そうした場合は缶詰やレトルト食品を活用するのもありだと思います。

 うつ病は年間約2万人にも達する自殺の主な要因です。さらに現在、コロナ禍によるストレスが加わり、誰にとっても、うつ病は他人事であると言い切れる環境ではなくなっていると思います。うつ病と栄養の関係が明らかになってきた現代こそ、古(いにしえ)からの「医食同源」の教えを実践するべき時なのではないでしょうか。

功刀 浩(くぬぎひろし)
帝京大学医学部教授。1961年生まれ。精神科学者、医学博士。東京大学医学部卒業後、ロンドン大学精神医学研究所に留学。精神疾患における食事療法に注目し、臨床研究に取り組んでいる。『精神疾患の脳科学講義』など著書多数。

週刊新潮 2021年9月30日号掲載

特集「『精神栄養学』の第一人者が推奨 『心の病』に効く『最強の食事術』」より

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