日本人初の金メダリスト「織田幹雄」のストイックさに見る「スポーツ選手の理想像」の変化(小林信也)
史上最多27個の金メダルに沸いた東京五輪。私は「30個は確実。最多37個は獲れる」とテレビ番組で予想した。その数字に届かなかった理由は明快だ。
「桃田賢斗、奥原希望、バドミントン女子ダブルス、内村航平、瀬戸大也、柔道混合団体、大坂なおみ、松山英樹、楢崎智亜、森ひかる、清水希容、中村輪夢ら、本命といわれた多くの選手が苦杯をなめたのだ」
長く日本代表に携わったある指導者が、敗れた選手の傾向をこう指摘した。
「すでに大金を手にした、男か女に走った、テレビにたくさん出てタレント気取りになった」
確かに、該当する選手は少なくない。最近の価値観からすれば、これら3要素を白眼視する方が時代遅れと非難される。プロ化が進み有名選手の大半がマネジメント事務所と契約し、タレント活動も並行している。
「世界は甘くない、本気で勝ちたいなら競技に専念しろ!」といった古い常識はもう通用しない。だが、これだけの金メダル候補が敗れた現実を前に、一考の余地はあるのかもしれない。
「五輪までなるべく取材を受けない」と決めた上野由岐子は再び栄光をつかんだ。
フェンシングのエペ団体の金メダリスト見延和靖は、所属先の社長から1億円のボーナスを贈られ、話題となった。「フェンシングに夢があることを証明できた」とも報じられた。しかし、「だからフェンシングには夢がある」とする表現は妥当だろうか。フェンシングで金メダルを獲れる確率はいまのところ約1億分の4。しかも何十年に1度。週に2回は当選者が出るロト6の方が遥かに可能性は高い。
[1/3ページ]