なぜ大阪で初の民間「小児ホスピス」は誕生したのか 支援者の特別な思い【石井光太】
2016年に完成
大阪市の花博記念公園鶴見緑地の一角に、「TSURUMIこどもホスピス」の建物がある。ここは、日本で初めてできた、民間のこどもホスピスだ。
国内には命を脅かされている難病の子供たちが約2万人いるとされている。そうした子供たちは病気がわかると、外科手術や抗がん剤投与などつらい治療を長期間強いられる。
【写真】命の限られた難病の子供たちを受け入れる「TSURUMIこどもホスピス」。治療に明け暮れている子供たちの人生に光を与えるための取り組みが行われている
子供であるがゆえに、本人たちに選択権はほとんどなく、病棟に閉じ込められ、いつ終わるとも知れない治療に明け暮れる。それは必ずしも成功に終わるわけではなく、何割かは帰らぬ人となる。
そんな余命の限られた子供たちを受け入れ、喜びに満ちた時間を過ごしてもらえる場所をつくりたい。
こうした願いを抱いた医師、看護師、保育士、患者、家族らが集まり、TSURUMIこどもホスピスは2016年に完成した。
「子供たちの幸せを可能にするための施設」
緑地の木々に囲まれたホスピスの建物は、子供たちの夢を凝縮したような心ときめく空間だ。窓からは陽光が射し込み、室内には木の香りがたちこめている。たくさんのおもちゃが溢れる部屋、宿泊もできるロッジのようなプライベートルーム、幻想的な光と音の部屋、温泉のような大浴場。広い芝生の庭では、虫取りやキャンプやお祭りといった季節ごとのイベントが開催される。
スタッフは看護師や保育士といった資格を持っており、病気の子供たちが不安なく好きなように過ごせる手伝いをする。命の限られた子供たちは、体調の波が激しく、利用回数も限られてしまう。だからこそ、スタッフは子供たちの希望をできる限り聞き入れ、利用できる時に「最高の一日」を届けようとする。
子供はもちろん、家族にとってもこういう体験ができるのとできないのとでは違う。
仮に延命治療をくり返して最期の瞬間まで子供に苦痛を強いるとなれば、親は「苦しめてしまっただけだった」と後々まで悔やみかねない。しかし、治療の安定した時期や、余命告知された後に、家族で心から楽しいと思える体験を一回でも多くさせてあげられれば、「みんなで笑顔で過ごせて良かった」と思える。
ホスピス設立にあたって中心的な役割を果たした原純一(大阪市立総合医療センター副院長)は述べる。
「病院の中で、子供はおとなしく言いなりになる『良い患者』であることを求められます。でも、病気が治らないとわかった後までそれを強いる必要はありません。親の愛情につつまれ、きょうだいとはしゃぎ、友達と遊ぶ時間が必要なのです。こどもホスピスとは、そういう子供たちの幸せを可能にするための施設です」
驚くのは、このホスピスが寄付で成り立つ民間の独立した施設だということだ。2020年春以降のコロナ禍においても、ホスピスは活動をつづけており、チャリティーイベントが激減したため、クラウドファンディングを行ったところ、目標を大幅に上回るお金が一般の人から集まった。約六百万円を集めるのに、五百人以上の人が参加したというから、どれだけ多くの人たちに支えられているかがわかるだろう(寄付の詳細はホスピスのHPなど参照)。
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