ライター・SYOの「暗黒時代」を支えたアーティストとは 初対面で言われた「生涯忘れられない言葉」

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恩人と仕事をすることに

 なぜそんなに好きなのか? それはきっと、何度も救われたからだ。仕事に忙殺されて心が死んでいたときに聴いていた「享楽列車」、表現者としての原点を再認識させてくれた「ソウルセラー」、恋愛観の基本となった「君だけだ」……例を挙げればキリがない。僕らの世代、音楽は完全に「持ち運べるもの」に推移しており、リアルタイムに生活や人生の隣で鳴っている存在としての意味合いがより強くなった。それ故に、個人史と個々の楽曲が強く結びついている。

 特に長澤さんは「怒りが原動力」と語るように、日常に潜む疎外感や孤独感、痛みや生きづらさを時に切々と、時に茶化しつつ、愛を込めて歌うミュージシャンだ。同じ時代を生きている自分の感情とシンクロすることが非常に多い。「同系色の生きづらさを抱えている人がいる」、自分が独りじゃないと思えるだけで生きていけるものだ。

 そんなわけで、彼は僕にとって長らく恩人のような存在なのだが、このタイミングである奇跡が起こってしまった。なんと僕たちはいま、一緒に仕事をしている。今年に入り、マネージャーさんから連絡が届いた際には飛び上がるほど驚いたものだが、ライターとしてライブレポやコラム、インタビューを書かせていただいている。こんな未来を、だれが想像しただろう。何か一つでも欠けていたらこの未来はなかったわけで、東京での15年間が丸ごと肯定されたような気持ちだ。

 ステージと客席ではなく、同じ目線で初めてお会いした長澤さんは「俺らは別々の場所で頑張ってたんだね」と言ってくれた。心底、生きていて良かったと思った。あの日のことを、長澤さんにかけてもらった言葉を、僕は生涯忘れることはないだろう。

 彼の音楽は、この先も自分の生活のそばで鳴り続ける。ただし、以前よりも、もっともっと近くで。

SYO(しょー)
1987年生まれ。映画ライター。WEB、雑誌でエンタメ系全般のインタビュー、コラム等を執筆。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月30日掲載

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