金メダル・稲葉監督が明かす「キャプテンを置かなかった理由」 若い世代をマネジメントする術とは
叱る代わりにやったことは
〈細やかな気遣いに気配り。温かく手を差し伸べる優しいリーダー。「若い子」にとって理想的な上司に映るが、他方で、組織を単にまとめるだけでなく勝たせるためには、手綱をきつく締める局面も求められたのではないか。アメとムチ。激励と叱咤。この使い分けが、いつの時代も世の組織人を悩ませる。稲葉氏がムチを使う場面はなかったのか。〉
選手を叱ったことはないですね。その代わりというか、選手たちに向けて強いメッセージを出しました。とにかく日本が勝つこと。それが一番大事であり、その点においては妥協しないというメッセージを選手たちには伝えたつもりです。
プレミア12の初戦で、私は調子の悪かった(坂本)勇人(はやと)に代打を送りました。何としてでも勝利をつかみ取るためには、中心選手であろうと代える。このことで、「稲葉監督は勝つためであればこういうこともするんだ」という強固な意志、メッセージが選手たちに伝わったのではないかと思います。
だから今回の東京五輪でも、サヨナラ勝ちしたアメリカ戦で、先発の(田中)将大(まさひろ)を、逆転を許した4回でスパッと代えました。もう少し投げさせてあげたいところもあったんですが、やはりあそこは勝つために将大の交代しかなかった。ムチと言えるのか分かりませんが、そうしたメッセージは常に送ってきたつもりです。そして、それによって腐ってしまう選手はひとりもいませんでした。将大も、交代した後にベンチで必死に応援し続けてくれました。
侍ジャパンに課されていた使命は五輪で金メダルを獲ることです。そのためには、「良い選手を集める」のではなく、「良いチームを作る」。まさにその通りのチームになったと思います。そして、我々は勝ったのです。
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