金メダル・稲葉監督が明かす「キャプテンを置かなかった理由」 若い世代をマネジメントする術とは

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「飯食いに行くぞ!」で付いてきたのは前の時代

〈侍ジャパンの選手たちが「結束」していたことを物語る逸話である。しかしそれは、選手たちだけの力ではあるまい。選手にそう言わせる稲葉監督のチーム作りの賜物でもあろう。つまり、稲葉監督は若き侍たちの心を掴んだのだ。ここで、冒頭の「価値観」についての話に戻る。〉

 監督というリーダーを務めるにあたり、ビジネスマン向けの動画などを観たりして、ささやかながら私なりに勉強しました。

 戦後間もない頃であれば、食糧事情が良くないなかで、「飯食いに行くぞ!」と言えば若い人は付いてきた。上司にとって、部下に食事を食べさせることがリーダーシップにつながった。食の時代ですよね。

 一方、私が現役選手だった頃はお金の時代です。とにかくお金を稼ぐために働く、それがモチベーションでした。

現代のキャプテンシーとは

 それでは、今の若い子たちにとって大事な価値観とは何か――。自分の存在感、存在価値をいかに認めてもらえるか、だというのです。インスタグラムをはじめとするSNSでの発信がその象徴ですが、要は「自分」というものをしっかりと外に出しつつ、自分の存在感を大事にする、認めてもらうことを重要視するのが今の若い子たちの価値観なのだと。

 なるほどと思いました。

 これを具体的に侍ジャパンでどう活かしたか。選手それぞれの役割を明確にしてあげることで、彼らが大事にしている存在感を尊重し、モチベーションを保つことにつなげられたのではないかなと感じています。

 壮亮ら控えの選手にも大事な役割があることを伝え、所属チームでは先発を務めている千賀たちにも、第2先発(中継ぎ)の重要性を説明したところ、「どこでも行きます」と言ってくれました。本当だったら先発で行きたかったでしょうけど、我慢して、理解してくれた。感謝ですね。

 また、選手の中にキャプテンを置くこともしませんでした。昔は、ヤクルトの宮本(慎也)さんのように、強力なキャプテンシーを持つ人がいて、そのキャプテンが引っ張っていくという時代がありました。宮本さんは、まさに「ザ・キャプテン」です。

 一方、今の時代、果たしてキャプテン制度が本当に合っているんだろうかと考えたんです。キャプテンがいることで、周りの若い選手は遠慮してしまって、言いたいことが言えなくなる。それが、自分の存在感を大事にする今の若い子たちにとって良いことなのだろうか。今の時代を考えると、若い選手を含めて言いたいことを言い合え、選手たち同士でチームを作り上げていくほうが良いんじゃないかと考えたんです。

 あとは、私に意見を言ってきやすいように、選手たちとのコミュニケーションを大切にしました。侍ジャパンは、一年中、常に行動をともにできるわけではありません。ですから、合流した時にどれだけコミュニケーションを取れるかにかかっている部分があります。

 選手と会話し、私の思いを伝えると同時に、選手たちを理解することにも努める。控えの選手に声を掛けるのと同様に、打たれたピッチャーにも「また次の機会があるからね」と言ったりもしました。

 全員で一緒に戦う。一人でもそっぽを向いていると、チームの力はまとまらずに拡散してしまいます。その点は一番強く意識していました。

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