金メダル・稲葉監督が明かす「キャプテンを置かなかった理由」 若い世代をマネジメントする術とは
流れが悪い時に…
〈最終的に2対0で勝利した決勝戦での「苦しいアウト」に象徴されるように、侍ジャパンは5戦全勝で金メダルを獲得したものの、その道のりは平坦ではなかった。
初戦のドミニカ共和国戦(7月28日)から、相手に先制を許し、9回裏に何とか逆転サヨナラ勝ち(4対3)をおさめるという苦戦を強いられたのだ。
とりわけ、6回まで0封と好投していた先発投手の山本由伸(よしのぶ)を交代させ、7回から投入した青柳晃洋(こうよう)が打ち込まれると、「継投が早すぎたのではないか」と、稲葉氏の采配に批判の声があがった。〉
由伸が投げていた6回まで0対0だったので、その段階で交代させてしまう怖さは当然ありました。しかし、酷暑の中で昼の12時スタートのデーゲームであったことに加え、五輪独特の緊張感もあり、次の試合に備えてもらう意味でも、由伸の疲労を勘案して6回で交代してもらうことにしました。
国際大会の独特のプレッシャーのなかで、絶対に先制点を取られてはいけないという重圧を抱えた先発投手には、普段のシーズンとは違った疲労が蓄積されます。ですから、5回まで抑えてくれれば充分で、早めの継投をしていくことは事前に決めていました。結果的にドミニカ戦でこの戦略が裏目に出てしまったのは私の責任です。
しかし、選手たちの頑張りによって逆転サヨナラ勝ちをすることができた。選手に感謝するしかありませんが、ここで改めてチームがひとつになったんじゃないかと思います。窮地に陥りながらも終盤で逆転する。「俺たちはいけるぞ」とまとまった気がします。(19年に開催された五輪前哨戦の)プレミア12でも、初戦のベネズエラ戦で、2点のビハインドを終盤にひっくり返して勝ってから、チームに勢いがつくという経験をしていました。したがって、流れが悪いからといってバタバタするのはよそう、練ってきた戦略を変える必要はないと、五輪の前から決めていたんです。
〈ピンチに動じない。これも組織のリーダーに求められる資質のひとつに違いない。
こうして初戦に勝利し、「チーム内」は勢いづいたものの、「チーム外」はやや違った。前記したように、「迷采配」などと、稲葉氏の継投策に疑義を呈する声がメディアを賑わせることになったのだ。〉
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