小児ホスピスの奇跡 コロナ禍で命限られた子供ためにやった新たな取り組み【石井光太】

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「みんな、きいて。つるみのこと」

 こうしたオンラインイベントの中で、スタッフらの印象に残っているものがある。「みんな、きいて。つるみのこと」と題されたイベントだ。

 発案は、小学四年生の白血病の女の子だった。彼女がホスピスのことをより多くの人に知らせるイベントをやりたいと言い出したのだ。そこでスタッフがサポートして、YouTubeのライブ配信をすることになった。女の子がホスピスの良いところや、利用の仕方や、スタッフの紹介などをする。ライブの間、閲覧していた医療者や他の家族から次々にコメントが寄せられ、彼女は喜びを隠しきれない様子だった。

 市川は次のように語る。

「うちを利用するお子さんの多くが、これをしたい、あれをしたいという思いを抱いています。うちは、それを実現させる場なんです。だから、私たちが主導して何かをやるというより、お子さんたちの思いが実現するようなものをやりたいと思っています」

 利用する子供たちの満足を第一に考える、ホスピスらしい取り組みだ。

病室の子とオンラインツールで

 オンラインツールの活用方法は、イベントだけに留まらない。終末期が近づき、ホスピスを利用できなくなる子供たちに対する支援にも役に立った。

 ある八歳の女の子は、体調が安定している時はホスピスを利用していたが、病状が悪化するにつれて通うことが難しくなり、長い入院生活を余儀なくされた。

 これまでならホスピスに来られなくなった時点で、スタッフと女の子の距離は開いてしまいかねない。だが、オンラインツールを活用したことで、病室の女の子とスタッフがつながることが可能になった。スタッフは、病室のベッドにいる女の子に連絡をし、オンラインでおしゃべりをしたり、遊んだり、励ましたりした。

 スタッフが彼女とよくやったのは、「脱獄ごっこ」という携帯ゲームだった。以前なら病室で一人でやるだけだったのが、ネットでホスピスとつながることで、スタッフと遊べるようになった。

 2021年に入り、この女の子は亡くなってしまったものの、コロナ禍で面会もままならない中で、気心の知れたスタッフと楽しい時間を過ごせたことは、大きな喜びだったにちがいない。

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