小児ホスピスの奇跡 コロナ禍で命限られた子供ためにやった新たな取り組み【石井光太】

ドクター新潮 医療 その他

  • ブックマーク

人生に光を与えるための空間

 大阪市鶴見区にある、「TSURUMIこどもホスピス」。ここは、命の限られた難病の子供たちを受け入れる、日本初の民間こどもホスピスだ。

 こどもホスピスの役割は、成人のホスピスとは異なる。成人のホスピスは末期がんなど終末期の患者が、痛みや苦しみを取り除いてもらいながら、安らかな死を迎えるための施設だ。

 一方、こどもホスピスの役割は、病院で厳しい治療を受けている子供たちが、一時的にでもそこから解き放たれ、看護師や保育士の資格のあるスタッフに支えられて家族と好きな遊びをしたり、友達とパーティーを開いたり、ホスピスの開催するお祭りやキャンプに参加したりする施設だ。いわば、治療に明け暮れていた難病の子供たちの人生に光を与えるための空間なのだ。

 私は『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』(新潮社)で、その成り立ちから取り組みまでをノンフィクションとしてまとめた。

 ところが、2020年春から本格化したコロナ禍は、こどもホスピスの活動を制限することになった。これまで行っていたイベントの開催や、ボランティアとの交流が、すべて中止になったのである。

 だが、難病の子供たちに残された時間は限られている。今しか向き合える時間はないのだ。そんな中で、ホスピスはどうやって子供たちの命に輝きを与えようとしたのか――。

「今この瞬間しか」

 2020年4月、1回目の緊急事態宣言が発令された後、社会では飲食店だけでなく遊園地や温泉、学童に至るまで様々なところが休業に追い込まれた。特に難病の子供が遊べる場所はことごとく失われたと言っていい。

 そんな中、TSURUMIこどもホスピスには、難病の子供を持つ家族から問い合わせがひっきりなしに寄せられた。ホスピスは開いているのか、利用はできるのか、といった相談だった。

 同ホスピスのアシスタントケアマネージャーの市川雅子は言う。

「世間はコロナ一色で多くの活動が休止に追い込まれていましたが、余命の限られた子供たちに残された時間は長くはありません。今この瞬間しか何かをしてあげることができないという子だっているのです。

 そういう家族にしてみれば、子供を一度でいいから病院の外へ連れて行って、好きに遊ばせてあげたいと願います。コロナ禍で多くの施設が閉まっている中、そういう家族がうちを利用させてくれないかと相談してきたのです。うちのように専門知識のあるスタッフがいて、設備が整っているところなら、安心できるという期待もあったのでしょう」

次ページ:幕を開けた緊迫した日々

前へ 1 2 3 4 次へ

[1/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。