間男との現場を目撃しても何も言えず、今度は自分が…浮気性の妻をもった主夫のモヤモヤ
気持ちを萎えさせた妻の言葉
それほど後ろめたかったのに、彼は三智子さんとの逢瀬を続けた。酔っ払って話した「専業主夫の孤独」に三智子さんがいたく同情していたようだが、そのことについて純也さんはほとんど記憶がないという。それでも自分を好いてくれる三智子さんの気持ちがうれしくて、独身の彼女から「寂しいの。飲みに行こう」と言われると断れなくなった。
「子どもの世話がおろそかになって、数ヶ月たたないうちに聡子に言われました。『働き方を変えたいなら相談してよ』と。『あなたがもっと外に出たいなら、私も時間のやりくりを考えるし、収支が合うならシッターさんに来てもらってもいいし』って。そのとき気づいたんですよ。聡子はできすぎなんだ、と。いや、浮気しているんだから、一般常識でいえばできすぎた妻であるはずもないんだけど、僕らの関係としては妻はできすぎている。彼女は自分のしていることにすべて自分で責任をもっている。でも僕ははみ出してしまった。そんな僕に『ちゃんと役割を果たせ』と言わないのは、聡子の優しさであり、できすぎたところなんですよ。だから僕はますます自分の小ささを感じさせられてしまう」
話を聞いていた私は、それは違うと思った。聡子さんは、なにより自分の自由を大事にする人だから、夫である純也さんの自由も邪魔したくなかったのだ。浮気しているとわかっても、そこを突かないのは、自身を見逃してくれている夫への感謝の念があるからこそではないのだろうか。独特かもしれないが、そういった彼女の思考回路を念頭に置かなければ、妻への理解は深まらないのではないか。一般論にとらわれていたら、彼女の魅力がわからない。そのことは純也さん本人もわかっているはずでは……。
そう思って熱弁をふるうと、純也さんはしばらく黙り込んでいた。
「そうですよね。わかっていたはずなのに、なぜ僕だけが悪者になってしまうのか、そこに苛立ちを覚えていたんです。結局、僕は聡子にああ言われて気持ちが萎え、三智子と別れました。聡子のほうは相変わらず、男がいるみたいですけど、いっさいそういうそぶりを見せない。そもそも僕の方が子どもと深く関わってきたから、もし浮気がばれた場合、僕のほうが家庭内の立場がなくなるんです」
そう言いつつ、彼は「いや、そういうことじゃないな」と逡巡を見せた。何もかもうまくやっている妻への妬みがあるのかもしれない。
「夫と妻を入れ替えるとわかりやすいかもしれませんね。夫が浮気したとき、妻はそんな暇と金があったら、自分と子どもにその時間と愛情をかけてくれと思うわけでしょ。自分だけ勝手に遊ばないでよ、とも思うでしょう。本音を言えば、僕もそう思っているんです、きっと。だけど男のプライドみたいなものが邪魔して、そう言えない。そんなふうには思っていないと自分で否定してしまう。やはり男としての器みたいなものにこだわっているんでしょうね」
そして家庭生活は今も続く
純也さんは今も聡子さんに惚れ込んでいる。そして聡子さんがいちばん大事にしている「自由」を奪ってはいけないとも考えている。だからこそ苦しいのだろう。こんなに尽くしているのに、どうして「僕だけ」ではいてくれないのか。そんな本音もあるのではないだろうか。だがそれを妻に言えないのは彼のプライドであり、言ったら聡子さんのよさを否定することにもつながるとわかっているからだ。
三智子さんと関係をもってから2年、純也さんは今も主夫業をメインに家庭を維持している。聡子さんは変わらず、外でバリバリ働き、さらに出世街道を驀進しているようだ。
「子どもたちも思春期で微妙な時期になっていきますから、あとしばらくは子ども優先にしていこうと思っています。いろいろ苦しいけど、老後、聡子とこういうことも話せたらと思って……」
外へ向かう妻、内に向かわざるを得ない夫。微妙にして肝心な舵取りは夫の腕にかかっているのかもしれない。
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