人流の増減にかかわらず感染者数の波は「4カ月周期」? ロックダウンの妥当性は
人流一本足打法を反省せよ
だが、ワクチン接種者のブレークスルー感染に不安を募らせる人は多い。また、2回の接種では心許ないと感じている人も多いようだが、東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授は、
「3回目の接種への言及が増えましたが、社会全体として、感染や発症自体を抑えるのか、重症化や死亡を減らすのを目的とするかによっても変わってくる」
と言って、続ける。
「ワクチン接種後、半年で中和抗体が4分の1に減るというデータがありますが、感染予防効果も同様に減るわけではありません。イスラエルの査読前の論文では、ワクチンを1月に打った人と5月に打った人では、5月に打ったばかりの人は感染予防効果が、1月の人の2倍あったとのこと。しかし、1月に打った人たちも未接種者とくらべ、50~60%の感染予防効果を維持し、年齢にもよりますが、90%前後の重症化予防効果を維持していることがわかりました。また、カタールの査読前の論文では、2回目の接種から数カ月経った人でも、ファイザーで感染予防53・5%、重症化予防89・7%、モデルナでは、それぞれ84・8%と100%、確認されています」
ワクチンは現状、接種から時間が経過しても、かなり高い効果が確認されている。あとは意味のある対策に絞って実行しつつ、社会、経済を動かしていくことだろう。医師でもある東京大学大学院法学政治学研究科の米村滋人教授が言う。
「今後も同じ緊急事態宣言を発令し続けるのは、非現実的で、宣言に頼らずに感染をコントロールする方法を、見出す必要があります。私は三つのミクロ対策をすべきだと思います。一つは、不織布マスクの義務化。二つ目は、換気の徹底。もう一つは、換気をしにくいときには空気清浄機を使うということです」
加えて政府に望むのは、
「医療体制の整備。感染者が急増しても十分に受け止められる体制が整っていれば、ミクロ対策などの新しい施策も導入しやすい。これまで国は病床数を増やすことに注力し、数字上は増えました。しかし、運用してみると、スタッフが足りなかったり、設備が整っていなかったりで、患者の受け入れが困難な場面も多かった。政府と行政は医療の実態をもっと把握すべきで、私は協議会方式を導入すべきだと思います。行政が音頭をとり、地域の病院の代表者が集まる場を設け、各病院の代表者に、うちはコロナ患者を受け入れられないが、受け入れている病院の緩和ケアの患者を受け入れるとか、スタッフが足りなければ、余力がある病院が派遣するとか、病院間で協議してもらうのです」
だが、政府も専門家もその前に、これまでの誤りを認めるべきで、そこからしか、新しい一歩は踏み出せまい。東京脳神経センター整形外科、脊椎外科部長の川口浩医師が訴える。
「政府分科会も医師会も、感染症対策といえば、人流抑制しか言ってきませんでした。尾身会長をはじめとする医療の専門家も、対策はサイエンスとかけ離れた人流のみ。日本医師会も本来は医療体制の改善、構築の具体案を出すべきなのに、人流に関する政府や分科会の対策が甘いと批判することで、存在感や優位性をアピールし、国民を脅迫するのみでした。それが少しおかしいのではないか、となったのは、第5波になってから。人流の制限にも効果はあったかもしれませんが、解決策にはなりませんでした。人流一本足打法でやってきてしまったことを、政府分科会も医師会も反省すべきだと思います」
毎日新聞の最新の世論調査によれば、政府が示した行動制限の緩和方針が「妥当だ」と答えた人は、49%に及んだ。恐怖を煽る戦術にいつまでも騙されるほど、国民はバカではない。重症化をある程度予防できる以上、人知を超えた感染の波への抵抗はやめ、ミクロ対策はしつつ、日常を取り戻すことが大切である。
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