税制大改革で何が変わる? 知っておくべき「相続税」「贈与税」対策

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「空き家バンク」も一案

 これら極端なケースはさておき、親族間の遺産分割協議が長引くことは決して珍しくない。

「今回は不動産登記法とともに民法も改正されました。これにより、相続分につき争いがあるときは、原則として協議は10年以内に終えなければならず、それを超えた場合には法定相続分で遺産分割されることになったのです」

 とは、行政書士の露木幸彦氏である。

「これまで遺産分割協議は、いつ、どのタイミングで始めてもよいとされており、ずっと放置している遺族も少なくありませんでした。相続で揉めるのは、法定相続分でまとまらなかった時です。つまり誰かがわがままを通しているわけですが、従来はそうした人が交渉のテーブルにつかない場合、家庭裁判所の調停といった手段しかなかった。今回の改正で区切りが設けられ、『このままでは法定相続通りになるよ』と、非協力的な相手に交渉を促すことができるようになったのは大きいと思います」

 さらに今回、

「新たに『相続土地国庫帰属法』が成立しました。不動産を相続したものの、管理は大変で維持費や固定資産税もかかる。そうしたお荷物の物件を、10年分の管理費用を納めることで国に引き取ってもらうことが可能になったのです。ただ、売るに売れない土地を抱えた人にとっては朗報でしょうが、建物があれば壊して更地にしなければならず、土壌汚染や地下の埋設物があってもいけない。さまざまなハードルがあり、一概に使い勝手のよい制度とは言えません」

 それまで住人がいた家屋でも、ひとたび空き家になってしまえばなかなか引き取り手がつかないものである。そうした場合は、地方自治体の行っている「空き家バンク」という仕組みに登録し、広く居住希望者を募るのも一案である。

 国交省によれば全国1788の自治体のうち、この制度を備えているのは約1300にのぼるといい、少数ながら東京都内でも行われている。そのうちの一つである奥多摩町に聞くと、

「町では少子高齢化による過疎化が進んでおり、移住・定住者を増やしたいのですが、町内の94%が森林。急峻な地形でもあり、家を建てるにはお金がかかります。そこで、元々ある空き家を定住対策の資源として活用できないかと考えたのです。防犯防災上の点からも一石二鳥で、10年から空き家バンクを始めました」(若者定住推進課)

 同町では45歳以下の夫婦または中学生以下の子がいる世帯などの条件がある「若者用空家バンク」と「条件なし」の二つを用意しており、

「物件を『若者用』に賃貸登録する方には、補助金として1平方メートルあたり1万円、最大75万円を支給しています。これは相続手続きの費用やごみの片付け、リフォーム費用などに充ててもらうことにしています。売買の場合は最大で50万円。また『条件なし』に登録する方には賃貸で最大25万円、売買では10万円を補助しています」

 固定資産税の補助はないものの、賃貸ならば定期的な賃料が入ってくるわけだ。

「登録なさるのはやはり、物件を管理できなくなった高齢者の方や、相続のタイミングで放棄できなかった方などです。一方で空き家を求める方も増えており、移住・定住を含めた相談は一昨年度1200件あり、昨年度は1900件。今年度は5カ月間ですでに千件近くと、コロナ禍で急増しています。やはり自然環境のよいところで仕事をしたいという人が多く、需要は高まっています。一方で開始以来七十数件あった登録のうち、すでに60件以上が成立しており、現在は物件数が足りていません」

 まずはお住まいの自治体へ問い合わせてみる。そこから「負動産」が変貌を遂げるかもしれない。

 以上、一連の改正を整理してきた。“手っ取り早く金持ちから”だけでなく広く薄く取ろうとしつつも、世論を恐れる政治家の思惑で特例が延長されるなど複雑ではあるが。ご参考にして頂ければ幸いである。

週刊新潮 2021年9月23日号掲載

特集「「分かりにくい“令和の大改正”『相続税』『贈与税』対策で子・孫の『人生の節目』我が『晩年』に備える」より

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