輪転機大手「東京機械製作所」の株買い占めで新聞社と政府が右往左往する理由
「買収防衛策」を導入
一方のADCは、60年近く前の前身の倉庫事業会社時代に東証2部に上場し、その後、たびたび業態を変えてきた。2010年代に現社名の「アジア開発キャピタル」となり、香港の金融大手などの出資の下、事業の多角化を図った。だが、2020年にマレーシアの華僑のルーツを持つアンセム・ウォン氏が社長に就くと、経営方針が変わり、今は投資事業のてこ入れを進めているという。
しかし、もともとADCは実業が乏しく、資金調達も難航しており、経営状態が不透明だ。さらに、ADCは東京機械株の保有目的について「支配権の取得」と打ち出しながら、「発行者(=東京機械)に取締役候補者を派遣することは予定していない」という。東京機械の関係者は、「取締役候補者も派遣せず、どうするのか。経営をよくしたいという考えが全く読み取れない」と困惑する。
だからこそ、東京機械だけではなく、輪転機を購入し、日々のサポートを受けている新聞各社、さらに政府関係者の間では、新聞発行に干渉する狙いがあるのではないか、との憶測を生んだのだ。
ADCの意図を読み切れないまま、東京機械は「買収で経営に影響が出かねない」として、他の既存株主に新株予約権を与えて、8月にはADCの保有比率を引き下げる「買収防衛策」の導入を取締役会で承認した。実際に防衛策を発動するには株主の同意を得ることが望ましいとされ、東京機械は10月に開く臨時株主総会でADC以外の株主たちから賛同を得ることを目指している。
「ニュースの伝達に影響が及ぶ」
その動きと呼応するように、大手紙や地方紙、通信社など40社も9月10日、経営幹部の連名で「(東京機械の)業務運営の乱れや中長期的な開発・製造体制の変更が、大勢の読者へのニュースの伝達に影響が及ぶ」とする書簡を東京機械に送り、ADCの買収に危機感を持つよう促した。すると、東京機械はそれを即日開示する展開になった。
新聞各社は、「経営幹部が発破をかけ、記者や弁護士を使った情報収集にも動いている」(大手紙デスク)という。こうした動きをきっかけに、政府も東京機械の経営や新聞発行への影響を調べるため、調査や分析に乗り出したのだ。
東京機械は、外為法の対象となる「指定業種」に位置づけられている。外為法は、中国やロシアなどに代表される非同盟国の資本から、防衛技術や安全保障で重要な情報を持つ国内企業が買収されて技術・情報が流出する事態を阻止するために、外国資本による出資を規制する法律だ。
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