「笑ってはいけない」中止で振り返る“テレビ規制の歴史” キムタク「ギフト」が再放送されない理由

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ソフトになった刑事ドラマ

 暴力も消えた。テレビ朝日「西部警察」の全3作(1979年~1984年)では大門(故・渡哲也さん)らが捕らえた犯人の顔などを殴打していたが、今の刑事ドラマの主人公たちはみんなソフトである。

 やはり民放連放送基準が「暴力行為は、その目的のいかんを問わず、否定的に取り扱う」と定めているからだ。治安を守る側である刑事が、違法行為である暴力を振るうわけにはいかない。

 また同基準には「暴力行為の表現は、最小限にとどめる」ともある。だから、「太陽にほえろ!」(1972年~1986年)や「西部警察」のころより暴力シーンは激減している。気がつくと、暴力シーンを目にすることはほとんどない。

 暴力を否定するのだから、ヤクザ映画は間違っても放送できない。若い人は「そんなもの最初からやってないだろう」と思うかも知れないが、金曜日の午後9時台に編成されていたフジ「ゴールデン洋画劇場」は1991年から1992年にかけて「仁義なき戦い」全5作を放送した。

 当時、これを問題視した新聞や雑誌はなかった。名作ということもあるだろう。半面、今放送したら、問題視する視聴者もいるはずだ。社会通念が変化したからである。

 そもそも民放連放送基準には「犯罪を肯定したり犯罪者を英雄扱いしたりしてはならない」とある。登場人物が犯罪者や反社会的勢力だらけのヤクザ映画の放送は土台無理なのだ。

ドラマ「ギフト」が再放送されないワケ

 刃物も消えた。フジテレビのドラマ「ギフト」(1997年)で木村拓哉(48)演じる主人公が持っていたバタフライナイフを、中学生が真似て所持し、女性教師を刺殺するという事件が起きてしまい、その後もバタフライナイフを用いた犯罪が続いたためだ。

 各局とも自主規制した。政治家や官僚、自治体、世間からのテレビ批判の声がかつてないほどに高まったためだ。「ギフト」は再放送もビデオの販売もなくなった。

 99.9%以上の人はドラマを見たからといって犯罪など起こさない。半面、0.1%以下の人が真似るのは防げない。これが高齢者から子供まで膨大な数の人が見ているテレビの怖さだ。BPO青少年委員会の危惧もここにあると見ていい。

 犯罪実録ドラマもほぼ消えた。被害者とその家族に人権があるのはもちろん、犯罪者やその家族にも人権はあるという認識の浸透が背景にある。

 事件をドラマ化するとなると、モデルとなる関係者全員の承諾を得なくてはならない。その辺が曖昧だった昭和期と違うので、制作が難しくなった。

 実録ドラマの嚆矢は故・本田靖春氏のノンフィクション小説を原作とするテレビ朝日「戦後最大の誘拐・吉展ちゃん事件」(1979年)。傑作中の傑作だった。この作品が大成功を収めたことから、各局とも「金嬉老事件」や「群馬県連続婦女暴行殺人事件」などの実録ドラマに次々と挑んだ。

 もっとも、人権意識の高まりによって制作のハードルが高くなり、1990年から2000年代にかけて減っていく。フジは2020年、「実録ドラマ 3つの取調室 ~埼玉愛犬家連続殺人事件」を放送したが、テレビ朝日が「実録ドラマスペシャル 女の犯罪ミステリー 福田和子 整形逃亡15年」を放送したのが2016年なので、実に4年ぶりの実録ドラマだった。

 多くの実録ドラマは再放送できないはずだ。再放送の際にも被害者や犯罪者たちの承諾が不可欠だからだ。人権意識が希薄だったころとは違う。これも社会通念の変化である。

 今のテレビ(地上波)は水道や電気と同じインフラだ。一番に求められているのは安心と安全。社会通念によって規制されてきたのだから、後戻りは出来ない。

 その中で金鉱を見つけられるかどうかがテレビマンの腕の見せどころである。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月25日掲載

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