結婚20年の妻が突然の駆け落ち不倫… 苦悩の夫が語る「まさかの相手」と「疎外感」

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離婚するつもりはない

 妻は夫からの電話をブロックしていたのだ。夫婦として、男女として、そして個人と個人としての関係を盤石に築いてきたつもりだっただけに、宏一さんの落胆は大きかった。

「妻が出て行って2ヶ月ほどたって、ようやく電話で話すことができました。彼女はまず『ごめんなさい』と言いました。どういうことなんだよと言うと、やはり涼子さんと恋に落ちたと。もともと女友だちは多かったけれど、同性を恋愛対象だと思ったことはなかったそうです。ただ、涼子さんと親しくなるにつれ、彼女に触れたいと思うようになった。自分でも意外だったと。女として気持ちがいいのかと嫌味を言うと、『気持ちいいわよ、男の比じゃない』と言われて、その場に崩れ落ちるほどショックでした。言われてみれば遙香はあまり性的なことには関心を示しませんでしたね。僕もそんなに性欲が強いほうではないし、行為自体より遙香と話しているほうが楽しかった。

 オレに不満があったのかと尋ねたら、『不満はなかったわよ。あなたと話しているのは楽しかった。でも最初に約束したでしょう。いつまでも恋人でいようねって。私が恋したのは涼子だった。あなたには恋人というよりは同士的な感情のほうが強かったの』と泣きながら告白してくれました。オレは女に妻をとられたわけか、と言ったら『そんな言い方しないで。私にとって涼子は運命の人だったのよ。男とか女とかは関係ない』と言われました。関係ないのかなあ、僕は同性に恋愛感情を抱いたことがないからわかりませんが、同性だからこその魅力もあったんじゃないかと客観的に感じますね。つまり妻にはそういう素質があったんだ、と」

 相手が男だったら納得できたというわけではない。だが女性に取られたというのが宏一さんの男としてのプライドをズタズタにしたようだ。遙香さんは「いつか居場所を教えるし、いつか会えるといいと思っている」と電話を切った。宏一さんは複雑な気持ちを抱えたままだ。

「今のところ、離婚するつもりはありません。長女はどう思っているのか聞いてみたら、『誰が悪いわけでもないでしょ』と。遙香の気持ち、わかるのかというと『わからない。でもわからないなりに理解はしようと思ってる』って。次女も長女からそれとなく状況は聞いているみたいですね。長女の話では、涼子さんの離婚が成立するまでは居場所は隠しておきたいそうです。夫婦の問題に遙香が巻き込まれたんじゃないかと私は心配したんですが、長女は『大丈夫。弁護士さんつけて、粛々と離婚に向かっているから』と言っていました」

 それから1年後、宏一さんはようやく遙香さんに会った。変わらず涼子さんと暮らしているという。涼子さんの娘も、宏一さんのふたりの娘も、遙香さんたちとは自由に連絡をとっているようだ。

「僕は男だということだけで“排除”されたんでしょうか。なんだかそういう気分になりました」

 宏一さんは今も店を続けているが、長女は来春、就職だ。大学生の次女もいずれ巣立っていくだろう。ふたりが自立したら店は閉めるつもりでいる。

「いつか遙香が帰ってくるんじゃないかと思っていたんですが、2年たった今、その可能性は低いような気がしてきました。女性陣の関係は密なので、もう僕の入り込む余地がないのかもしれない。この20年は何だったのかと今は虚しさしかありません」

 妻の不倫に悩む夫の話は最近、よく耳にする。だが相手が女性だったというのは、決して「よくあるケース」ではない。宏一さんがこれからどうするのか、遙香さんとの関係はどうなるのか興味は尽きない。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月22日掲載

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