ジョニー・デップが写真家を好演 映画「MINAMATA-水俣-」が伝える報道の精神

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 写真家ユージン・スミスは、米国人でありながら熊本・水俣に居を構え、世間の無理解や偏見にさらされていた水俣病患者たちの姿をカメラで記録、世界中に発信したことで知られている。胎児性水俣病の娘を母親が入浴させる様子を撮影した「入浴する智子と母」は、汚染物質がもたらす恐ろしさと、そこで生きる人間の美しさを多くの人たちに知らせることになった一枚だ。彼の水俣での日々を実話に基づき再現した映画「MINAMATA-ミナマタ-」が9月23日より劇場公開される。

 メディア、特に報道の分野で働くことを希望する若者には必見といえる映画だ。

ジョニー・デップが演じた“弱い男”

 ユージン・スミスを演じているのはジョニー・デップ。『パイレーツ・オブ・カリビアン』での残忍だがどこか愛嬌がある海賊役で人気を博し、米誌『ピープル』で「最もセクシーな男性」に2度選ばれたことがあるハリウッド俳優だ。

 今回、実在した写真ジャーナリストの役を演じたが、最初から正義感にあふれる報道マンという役柄では登場していない。むしろ戦場カメラマンとしての過去の栄光とアルコールに溺れ、仕事や私生活にだらしなく仕事仲間にも愛想を尽かされるダメ人間という描き方である。子どもにも去られ、心の傷を抱えてニューヨークでアルコールに依存する“弱さ”を身にまとった孤独な50過ぎの男。生きる希望もなく、何かあればすぐに酒をあおってしまうダメ男……。

 そんな彼が20歳の女子大学生アイリーンに出会ったことで、日本の熊本・水俣に行き、新たな使命感に突き動かされるように生まれ変わる。水俣病に冒された人々やその家族らの苦悩を知るようになって、“弱さ”を抱えた人間の目の色が変わっていく日々を、ジョニー・デップは好演している。変化がほんの少しずつなのがいい。

 ジョニー・デップは主役を演じているだけではない。スタッフ・クレジットをよく読むと同じ名前が「製作」のところにもある。「製作」というのは映画をつくる上での出資や配給、宣伝など資金調達から運用までを担う最高責任者を意味する。この映画はジョニー・デップ自身の問題意識で彼が主導する形で世の中に出たものなのだ。

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