音楽フェス「スーパーソニック」強行開催 記者が見た”厳戒態勢”と“フジロックとの違い”
徘徊する“監視員”の目
小腹が空いてきたので、一旦外に出て、スタジアムの周囲に並ぶ屋台をのぞいてみた。当然、酒は一切売っていない。食事用のベンチには「黙食」の二文字。さらに、並んで座れないようにベンチの半分が紐で括られていた。
昼食後、今度はアリーナ席に。
目に飛び込んできたのは、ずらりと並べられた青いパイプ椅子だった。よく見ると、ステージ側を向いた椅子と逆向きの椅子が交互に並べられている。逆向きの椅子には座ることも、前に立つことも許されない。椅子がないところでの立ち見も禁止だ。
フジロックの場合は、地面にソーシャルディスタンスの目安となる黄色い目印が打ち付けられているだけで、ステージが佳境になると我を忘れた観客はいつしか密集していた。だが、ここでは否応なく一定の距離を取らされる。加えて、スタンド同様、おびただしい数の監視の目が光っていた。
ステージの最中も、「声援禁止」のプラカードを持った係員が、そこら中を巡回している。曲の合間に記者の後ろで、若い男性同士が談笑していると、すかさず係員が飛んできて、「会話はお控えください」と注意していた。歓声を上げようものなら、すぐさまつまみ出されてしまうのだろう。
午後3時頃、雨は一旦あがった。海外から来日したアーティストのライブが始まると、やがてアリーナ席は満杯に。見渡すとほとんどが20、30代の若者たちである。騒ぐこともなく、手を振ったり、体を揺らしたりしながらステージを楽しんでいた。曲が終わっても、拍手のみ。フジロックでは、ステージが佳境に差し掛かると、演者から観衆に「ジャンプ」を促すような場面もあったが、そのようなことも起こらなかった。
「ライブ配信の方が……」
午後5時過ぎ、石野卓球のステージを見てから外に出てみると、アリーナ席への入場待ちの客が200〜300人列をなしていた。会場内には「終演後は退場規制もあるので、1時間以上かかる可能性がある」と注意文が掲げられていたので、帰りは大変な混雑が予想される。
以上が、スーパーソニックの会場内のレポートである。世間の目を気にしてか、徹底した感染対策が敷かれていたことは確かである。だが、記者が思ったのは、どこで何をしていても窮屈さがあったところだ。会場で話を聞いた30代の女性会社員はこうこぼした。
「フェスって大好きな音楽を思いっきり楽しんでストレスを解消する場だと思うんです。もちろん、このご時世だからこれだけでも満足しなければならないんですが、声も出せない、お酒もダメ、いたるところに監視の目ってのは、ちょっと窮屈過ぎですよね。これだと家でライブ配信を見ていた方がいいかなって思っちゃいました」
主催者も音楽ファンも、我慢を強いられる大変なご時世である。