「ハコヅメ」最終回 他のヒットドラマより評価されるべき理由は「ヒト」と「カネ」

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当初は「イメージと違う」という声も

「ハコヅメ」が交番勤務のことなのはご存じの通り。しかし、第8話でダブルミーニングであることが分かった。藤は守護天使の資料を少しずつ集め、段ボール箱にハコヅメしていた。藤の決意と執念を表す言葉でもあった。

 放送開始当初は原作のファンから「藤と川合がイメージと違う」といった意見がSNS上で飛び交った。だが、今はそんな声がほぼ消えた。うまいキャスティングだった。

 源刑事役の三浦、そのペアで山田武志刑事役の山田裕貴(30)もハマった。藤と川合が勤務する町山交番の所長(ハコチョー)・伊賀崎秀一役のムロツヨシ(45)も同じだ。

 ムロは演技の幅の広さをあらためて見せつけている。伊賀崎はサボりのプロを自称する男。第5話で起きた火災の際もどこかへ雲隠れしていた。

川合「私たち交通整理してましたけど、ハコチョーいました?」

伊賀崎「もちろん、いたさ。後方で支援的な動きをしてた」

 後方って、どこだ? もちろん嘘である。普通なら視聴者から嫌われるキャラだが、そうなっていない。心やさしい男だからである。

 第6話で赤ん坊の交通事故死現場に遭遇した川合は深く沈み込む。すると、普段は上から目線の発言を一切しない伊賀崎が、「川合君、きょうはもう切り上げなさい。これは上司命令だから」と通告した。

 第7話での伊賀崎は女性用下着を身に付け、大学生を驚かせた犯人が「タチ悪いですよね…」と自省すると、それを否定した。

「性的嗜好は自由なんですから」(伊賀崎)。そして最後は「ただ、どんな性的嗜好であれ、人を傷つける理由にしちゃダメだと思うんです」(同)と諭し、連行した。

 サボらなかったら理想的な警察官なのかも知れない。伊賀崎の存在は視聴者側の癒やしになった。

 刑事を束ねる捜査1係長・北条保牧役の平山祐介(50)はいつもながらの安定感を見せ、牧高美和刑事役の西野七瀬(27)、そのペア刑事・鈴木敦役の渕野右登(26)もきっちりと演じている。

 鬼副所長・吉野正義役の千原せいじ(51)も本職の役者も顔負けの演技。さすがはNHK連続テレビ小説「おひさま」(2011年度前期)やテレビ朝日の倉本聰(86)作品「やすらぎの刻~道」(2019年)に請われて出た人である。

 適材適所。半面、これだけしかレギュラー出演陣と呼べる役者が見当たらない。白バイ隊員・宮原三郎役の駿河太郎(43)らはイレギュラーである。ドラマの公式ホームページの相関図に載っている出演陣も9人だけ。15人載っている「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(TBS)より大幅に少ない。

ローコスト作のモデルに

 背景には制作費の違いがあるのだろう。「MER」を放送していた「日曜劇場」は連ドラの中で制作費が最も高く、その額は推定4000万円以上。一方、「ハコヅメ」の放送枠は推定3000万円台。この差は大きい。

 だが、ローコストの少人数体制でヒットを掴み取ったのだから、その点でも「ハコヅメ」は讃えられて然りだろう。CM収入減から民放各局が制作費を削減し、2000万円台でつくる連ドラもある中、ロールモデルになる作品かも知れない。

「ハコヅメ」は日テレの水曜午後10時台の連ドラで1年近く続いた負の連鎖も断ち切った。この枠は「私たちはどうかしている」(昨年8月~9月)、「#リモラブ~普通の恋は邪道~」(昨年10月期)、「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(今年1月期)、「恋はDeepに」(今年4月期)を放送してきたものの、視聴率面での苦戦が続き、これらの作品は初回を除き平均世帯視聴率が2桁に達しなかった。世帯視聴率と連動する個人全体視聴率も低調だった。

 これらの連ドラには共通点がある。恋愛がテーマになっていたことだ。「ハコヅメ」は第5話で川合が恋に憧れたくらいで恋愛は描かれていない。脱・恋愛も勝因なのか。

 この放送枠の10月からの次回作は杉咲花(23)が主演する「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」。弱視の盲学校生(杉咲)とヤンキー少年(杉野遥亮、25)の恋がコミカルに描かれる。

「ハコヅメ」が弾みとなり、恋愛をテーマにすると苦戦するというジンクスを破れるか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月15日掲載

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