自分の不倫が原因で妻が「うつ」に… 10年超の罪滅ぼしをし続けた夫が口にした“本音”
自身の浮気が原因で妻が心を病んでしまったら、夫は後悔してもしきれないだろう。だがそれも長期間にわたると、自分の罪はあるとしても「いつになったら許されるのか」といらだちがわいてきても不思議はないように思う。原因を作ったのは夫ではあるが、そこまでいくと、もう誰が悪いという話でもないのかもしれない。
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「僕が悪いんです、そもそもは。それはわかっているし、なんとか責任をとるつもりでがんばってきました。その上で、新たな罪も背負ってしまった。だから白旗を揚げることにしたんです。もうがんばれない……」
松田和翔さん(47歳・仮名=以下同)は、そう言ってうなだれた。
高校時代に憧れていた同級生の絢子さんと再会したのは26歳のとき。告白から熱愛を経て、28歳で結婚した。翌年、長女の舞さんが生まれて一気に家庭は賑やかになった。
「ただ、僕はまだ親になる心構えができていなかったんですよ、正直言うと。家庭に縛られるのが怖くなって、仕事と称して飲み歩いたりもしていました。絢子はひとりで舞を育てるのに四苦八苦していたと思う。夜中にときおり『起きて、舞が息をしてない』と叫んだこともありました。もちろんちゃんと息はしてるし、すやすや寝ている。だけど絢子の声で起きて泣き出す。絢子自身が神経過敏になっていたんでしょうね。もともと繊細な女性なんだと思いますが、そこをわかってやれなかった」
舞さんが3歳になったころ、和翔さんは一度だけ学生時代の後輩と浮気をした。サークルの同窓会があって酔った勢いでそういうことになってしまったのだ。お互いに割り切っていたのだが、朝帰りになった和翔さんを絢子さんは責めた。
「飲み過ぎて電車がなくなって、始発で帰ってきただけだと強調しましたが、第六感が働いたんでしょうか。『女の匂いがする』と言われてドキッとした記憶があります」
その後、長男も生まれ、家族4人の生活が始まった。第二子となると絢子さんも慣れているし、さすがに和翔さんも束縛を覚えるよりは、自ら家庭人として育児に積極的に関わった。さらに食洗機や衣類乾燥機を購入、妻の家事が少しでも楽になるようにと配慮した。
ところが長女が小学校に上がったころ、和翔さんはまたも浮気をした。今度は一夜の過ちではなく、本気の恋だった。彼が36歳、仕事関係で知り合った既婚者の夏美さんは6歳年上で、今まで会ったことのないような“素敵な女性”だったという。
「彼女はちゃきちゃきの江戸っ子で、なんとも言えず粋で気っ風がよくて、一緒にいるととにかく気持ちのいい人。本来は『不倫なんてふざけたことはしない』と自分でも言っていました。だけど『和翔は別。運命を感じた』と。僕もそう思っていたから、一気に恋が燃え上がった」
身も心も彼女にはまったが、ふたりとも「家庭を優先しよう」と話し合った。恋は恋として成就させる、秘密の関係を墓場まで持っていこう、と。
「でも絢子の第六感はすごいですからね。1年たたずにバレました。僕の携帯を見たようです。彼女とのやりとりがスクショされた画面を突きつけられ、『どういうことよ』『私と子どもたちに死ねっていうの?』と。絢子は自分の希望で専業主婦となっていたのに、そのころは僕の前でよく『仕事を続けていればよかった』と愚痴っていました。だから、いきなり『死ねというの?』には、僕としてもちょっとカチンときたんですよ」
妻は、母としては完璧だった。子どもたちに過干渉なわけでもなく、かといって放任でもなかった。学生時代は児童心理を学び、幼稚園の教諭だった経験が生きていた。ただ、「人としておもしろい人間ではない」と和翔さんは言う。
「いいんですよ、おもしろくなくて。妻はまじめなほうがいいから。でもこういう物言いをすると女性から非難されるとわかっていて言いますけど、子どもの気持ちがわかるだけに、彼女自身も子ども目線なんですよね。たとえば本を読んでも深くは考えない。あらすじを追うだけ。僕が読んでおもしろいと思った本を渡しても、登場人物の心理を深く探ろうとはしない。そこがちょっと物足りなくはあった」
そこへするりと入り込んできたのが夏美さんだったのだろう。さばさばしているが、彼女の一言には「人間の酸いも甘いもかみ分けたような重さがあった」と彼は言う。
「地獄のような日々」
絢子さんにバレたとき、和翔さんは男女の関係はないと言い張った。数日後、帰宅すると真っ暗なリビングで妻が倒れていた。睡眠薬の飲み過ぎだった。慌てふためいて、彼はなぜか夏美さんに電話をかけてしまう。夜は連絡を取り合わないと決めていたのに、焦ったときにとっさに連絡してしまうあたりに、彼が当時どれほど彼女に溺れていたかがわかる。
「夏美にどやされました。早く救急車を呼びなさいって。『大丈夫よ、それじゃ死なないから。だけど誰か子どものめんどうを見てくれる人はいるの?』と聞かれ、誰もいないことに気づいた。夏美は『今すぐ行くから。鍵をどこかに置いておいて』と。その後、救急車を呼びました。長女が起きてしまったので母親の姿を見せないようにするのが大変でしたね」
そこへタクシーを飛ばして夏美さんが駆けつけてきた。夏美さんは子どもたちを部屋に連れていった。
「おかあさんがちょっと具合が悪いから病院に行くの。おばちゃんがいるから心配しなくていいからねと言っているのが聞こえました」
夏美さんの言うとおり、絢子さんは命に別状はなく、胃洗浄をして点滴を打っただけですんだが、あと半日ほど様子を見ることになった。自宅に戻ると、夏美さんが朝食を子どもたちに食べさせているところだった。
「すみません。お世話になってありがとうございます、とあえて丁寧な言葉を使いました。上の子が何か違和感を覚えたら困るので。夏美も『いえいえ、困ったときはお互いさまで』と他人行儀にしゃべって、すぐに帰っていきました。玄関で見送りながら手を合わせましたよ。すると彼女『いいって。困ったらいつでも言って』と。彼女自身は朝帰りになったことを家族にどう釈明したのか……」
絢子さんはすぐに退院し、和翔さんは「彼女は女友だち。絢子が思っているような関係ではないけど、誤解させたのなら申し訳ない」と平謝りした。夏美さんを期せずして家に引き入れてしまったことは内緒にした。これで落ち着くかと思われたが、どうも絢子さんの様子がおかしい。病院に連れて行くとうつ状態だとわかった。家事も育児もほとんどしない。本人も何も食べようとしない。絢子さんは精神科に入院することになった。
「数ヶ月入院して、ようやく落ち着いたんですが、帰宅しても無理はさせられない。それ以降、僕がほとんど家事と育児を担いました。早朝に起きて、妻の食事と夕飯の下ごしらえをして出社、夜はほとんど残業をせず帰宅して夕飯をみんなでとって、その後は子どもたちの宿題を見たり風呂に入れと促したり。数年たって、やっと下ごしらえをしておけば妻が夕飯の支度をしてくれるようになったけど、買い物に行くのは嫌がりましたね」
地獄のような日々だったと和翔さんは振り返る。睡眠時間は3,4時間。週末もゆっくりと寝ていられない。長女は小学校高学年になると家事を手伝ってくれるようになったし、母親のケアもしてくれようとした。だが、「娘にそこまでさせるのは忍びなかった。娘には自由に楽しい学校生活を送ってほしかったから」自分ががんばるしかないと腹をくくった。
妻の病状は一進一退で、外出できる日もあれば部屋にこもって鬱々としていることもある。すべては自分のせいだと和翔さんは思っていたが、長女が中学に入学したとき緊張の糸が途切れた。
「あれ以来、ほとんど会わずに、ときおりメッセージのやりとりだけしていた夏美に、久しぶりに会って愚痴をこぼしたんです。夏美は『和翔はがんばってきたよね。すごいと思う』と言って、僕の肩をポンポンと叩いた。それを合図にしたかのように僕は泣き崩れてしまったんですよね、居酒屋で。恥ずかしいけど、本当につらかったし、自分の親にも義父母にも愚痴は言えなかったから」
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