いまだに「女性の時代」が来ないのはなぜか――奥谷禮子(CCCサポート&コンサルティング会長兼CEO)【佐藤優の頂上対決】

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バッシングに遭う

佐藤 奥谷さんは、女性を活用するとともに、その彼女たちに、仕事をすることで生きがいを感じるような仕組みを作りだしたわけです。ドイツ語で仕事の「Beruf」は天職、使命という意味がある。それをプロデュースされてきた。

奥谷 まあ、そうかもしれない。

佐藤 そこをみんながきちんと理解していないから、ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用除外)導入時の議論で、ずいぶん叩かれたんじゃないかと思うんです。

奥谷 あの時は雑誌に「過労死は自己責任」と言ったように勝手に書かれてしまって、ボコボコにされたのね。ちょうど厚労省の労働政策審議会委員をやっていたから、国会にも呼び出されそうになった。私はちゃんと国会に出て説明したかったのに、経団連の事務局長が来て「それは止めてくれ」と頼まれたんですよ。知人の財界人に相談したら、おとなしくしていた方がいいと言う。それで国会にも行かず、委員も辞めたのよ。

佐藤 外務省時代、首脳会談前などは、月に300時間くらい当たり前のように残業をしていましたよ。政治家の勉強会の準備をして、資料を持って説明しに行って、そこで宿題をもらってそれに対処して、とやっていたら、そのくらいすぐいきます。土日も、朝はゆっくりですが、役所には出ていましたからね。

奥谷 そうなのよ。佐藤さんみたいに能力がある人は働きたいだけ働いて、自分できちんと判断して休めばいいの。自分で健康を管理して、自己責任で仕事に取り組めばいい。

佐藤 働き方改革でも、労働時間の短縮を言いますが、あれはマニュアル通りにやっている工場勤務の人たちを無理やり長時間働かせるな、ということでしょう。それを一律に当てはめようとするのはおかしい。

奥谷 自分で創造して何かを作ったり、書いたり、デザインしたりということには、時間は関係ない。集中して3時間でやる方がいい人もいれば、ゆっくり8時間かけたい人もいる。それに世の中がどんどん国際化されてきているでしょう。東京は夜でもニューヨークは朝なんだから、その分野の仕事をすると自分で健康管理するしかない。そういうことを言いたかったの。

佐藤 私はマルクスのことを書いたり富の再分配の重要性を指摘したりして、新自由主義的なものには批判的ですが、一方で、その人が成長するためにはある時期、猛烈に働くことは大切だと思っています。

奥谷 仕事が面白い、もっと働きたいと思っているとき、人の能力は伸びるのよね。

佐藤 それによって結果に差が出てくる。

奥谷 あの時、機会平等だから自分で能力を開発しない人は差がつくと言ったことも物議を醸したのね。これについては、いまみたいに格差がどんどん広がってくると、機会すら手に入らない人が出てくる。だからそこは反省しなきゃいけないと思っている。

佐藤 それは時代が動いたからですよ。そもそも奥谷さんが会社を始めた時期は、女性に機会の平等がなかったわけですからね。

奥谷 そうね、あの頃私たちは珍種のパンダみたいな扱いをされたけれど、いま女性に関して制度は整備されている。チャンスはいくらでもあるのに、いまだに「女性の時代が来ない」と言われるのは何なのかと思っちゃうわね。制度だけが先行して、女性が追いついていない。

佐藤 男性と伍して、という人は一部でしょうね。

奥谷 男性と同じにならなくてもいいのよ。人間社会には男とか女とか関係ないものがあるでしょう。

佐藤 ありますね。

奥谷 女性も、女性女性と声高に言わなくて、人間としてどう生きるべきかなのよ。それがきちっとあればいい。人間としてちゃんと生きている女性が少ないの。そもそもこれだけ制度ができて活躍する女性が少ないのは、社会性のトレーニングが欠けているからだという気がする。

佐藤 なるほど。

奥谷 女性の政治家と話をすると、もっと女性を応援する政策を作るんだと言うけど、そういう彼女よりも、例えば小池百合子の方が目立っているわけね。これまで権力者にくっついてうまく政界を渡り歩いてきたけれど、それはつまり、ある意味での社会性があるということ。その小池百合子的策略ができる女性は少ない。

結局は自分との闘い

佐藤 でも小池さんって、政治家として何をやりたいんですかね。

奥谷 何もないんじゃないの。

佐藤 権力を追求しているだけ。

奥谷 そうだと思う。女性の権力者って、そういうタイプが多いのよ。何をしたいかじゃなくて、そのポジションが欲しい。だからポジションを失ったら、すごく不安になってしまう。何か一つの本質的なものを作りたいとか、カルチャーを変えたいとか、集団になって何かを作ろうという情熱は少ない。ここは男性と違うところだと思ったりするけど、いまは男性にもそういう人は少ないわね。

佐藤 やはり教育ですかね。

奥谷 まず基本に教育があるわね。それに文化を楽しむ余裕や趣味。女性で大企業の役員になっている人の多くは、趣味がないのよね。「奥谷さん、どうやって趣味を持つの」と言ってくるんだから。

佐藤 それまで仕事に逃げてきたか、仕事を一所懸命にやって視野が狭くなっているか。

奥谷 話をして面白い、話題が豊富な人が少ない。趣味なんて考えて持つものじゃない。興味があればやればいい。まずは自分を突き放して、客観的に自分自身を見ないといけない。結局は自分との闘いだから。すべて自分。だから仕事だって、上司が悪いとか、社会が悪いとか言っている場合じゃないのよ。

佐藤 いま奥谷さんが取り組んでおられるのは何ですか。

奥谷 3年前にいまの会社をつくって、若手のベンチャーを育てている。

佐藤 これも一種の教育ですね。どうですか、感触は?

奥谷 難しいわね。やっぱり若い人はお金儲けに走ってしまうのよね。IPO(新規株式公開)が目標で、世の中を変えようとか、仕事を通じて社会システムを変えていこうとか、自分自身のミッションを持ってやっている人が意外に少ない。

佐藤 優秀な大学を出ても、お金だけ追いかけているなんてつまらないですね。

奥谷 いま東大発ベンチャーが流行っていて、すぐにお金が集まるわけ。でも形だけ作って、うまくいかないところが多いと聞いている。

佐藤 日本は、大学の中にも社会の中にも学生からベンチャーに行けるようになっていませんから。

奥谷 そう。ある意味で、一度組織に入って覚えるべきことは覚えたほうがいい。あるいはインターンに行ったりね。そうした仕組みづくりは必要だし、教育も大事。そして世の中のことは――佐藤さんに教えてもらうのが一番いいわね。

奥谷禮子(おくたにれいこ) CCCサポート&コンサルティング会長兼CEO
1950年兵庫県生まれ。甲南大学法学部卒。74年日本航空入社。国際線客室乗務員となり、結婚退職して同社VIPルームのアルバイトに。82年ザ・アール設立、36年間代表を務める。86年、経済同友会初の女性会員に。86~94年人材派遣会社ウイル社長を務めた他、ローソン、日本郵政の社外取締役も歴任。2018年より現職。

週刊新潮 2021年9月9日号掲載

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