公開から34年『ゆきゆきて、神軍』が今も人気の理由 原一男監督が語る「奥崎謙三」という男
奥崎謙三も炎上する?
――83年に自費出版した『殺人論』(サン書店)の中で奥崎は〈神(天・自然)は、人類全員に必要・有益なものをつくる本当の人間を多く犠牲にして、安全で贅沢な生活を送る、天皇裕仁・田中角栄・村本政雄(註:ニューギニアでの奥崎の上官)のような極悪非道の非人間に対して、正気に近い私のような非人間が殺意を抱くように定められているのであります〉と記しています。その思想が発展して、天皇制という“システム”を攻撃の対象にするようになったそうですね。
原監督:具体的に「昭和天皇個人を殺すべきだ」って言い方をしていた時期もあるんです。でもそれは非常に短い間。もし仮に天皇を殺すことができたとしても、次の天皇が現れるだけだ。だから天皇制というシステムそのものをブッ壊さないと駄目なんだって。奥崎さんの思想はグレード・アップ、バージョン・アップするんです。
天皇制を壊すっていう視点に立った時に、天皇制を維持するための機関はたくさんあるでしょ? 自衛隊・警察とか裁判所とか。それはすべからく、天皇制を維持するためのシステムであるという見方をする。皇位が継承されたり、実権を握っている政治家が変わっても、システムそのものは温存される。だからシステム自体を破壊しなければ無意味だと、奥崎さんは考えたわけです。
今はどうだろう……天皇制というシステムは、かつてほど強固に日本人の意識を縛ってないんじゃないかな。うまく日本人の意識の中に入り込んで、根を張っているって言うのかな。そう言った方が正しいんじゃないか。
時々、奥崎さんが生きていたらって思うことはある。でも1920年生まれだから、今年101歳。「生きていたら」って前提そのものが苦しいよね。それにアッと言う間に情報が拡散する今のネット社会では、奥崎さんほど強い人でもやっぱり、批判の意見で潰されてしまうんじゃないかと思う。暴力としてのネットのパワーは確実にあるっていうふうに、私なんかは思うんだ。