精神科医が教えるコロナ禍の「ストレスフリー」実践法 パフォーマンスを維持するスキルとは

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ヤマアラシのジレンマ

 ドイツの哲学者、ショウペンハウアーの寓話に「ヤマアラシのジレンマ」というのがあるのですが、冬の日に暖を取ろうとしたとき離れすぎると寒いし、近すぎるとお互いのとげが刺さって痛い。物理的にも心理的にも近づきすぎると、お互いの欠点、イヤなところが目に付いてしまうのは仕方がないことなんです。

 対処法としては、不可侵時間をつくって、距離を置くこと。午前中は夫はこのスペースで仕事。妻は別の場所で仕事をする。この時間はお互いに仕事に専念して、基本は話しかけない。

 世論調査でも、コロナ禍では、女性がより強くストレスを感じているという数字が出ています。これは日本社会がまだまだ女性が家事をするのが当たり前の社会であることを表しているデータだと思います。

 仕事をしている女性は、家事を手伝わない夫にストレスを感じます。時に外に出掛けたり、昼食を外で食べるなどの不可侵時間を意図的につくるようにするといいでしょう。

 お子さんを持つ家庭では、お子さんがずっと家にいるストレス、お子さん自身が抱えるストレスの両方の問題があります。

 年齢によって対処法は変わりますが、未就学児や小学校低学年くらいまでは、ストレスを発散するために屋外で運動をさせてあげる。感染が怖いなら一人でできる遊びや運動、キャンプなど自然を感じられる環境に身を置くというのも有効です。

 ある程度大きなお子さんは、夫婦間と同じように不可侵時間を意識して、規則正しい生活を送ること。

 家族間で大切にしてほしいのは、「ありがとう」の一言ですね。やってもらって当たり前という態度は、夫婦間でも親子間でも、余計なストレスをためることになります。反対に「ありがとう」の一言があれば、言われた相手が自己肯定感を得て、報われたという気持ちになり、ストレスが軽減されるのです。

〈コロナ禍は、私たちの働き方にも大きな影響を与えた。オフィスで顔を突き合わせて仕事をすることが少なくなり、社員間のコミュニケーション不足を感じる人も増えている。アフター5の“飲みニケーション”を含め、交流の場が少なくなった新しい働き方に適応する方法は?〉

 リモートで仕事をするような新しい働き方では、「任せる」ことが重要です。従来の働き方のままだと、しっかり働いているか確認するためにカメラをずっとオンにして「監視する」という発想になりがちですが、このやり方では生産性は決して上がりません。

 人間が本当に集中できる時間は15分くらいだといわれています。もちろん15分しか働けないという意味ではなくて、1時間の会議なら15分ごとに話題が変わったり、話す人が変わったりすることで緊張と緩和が交互に生まれて、集中が持続するのです。

 私も15分で落ちきる砂時計をデスクサイドに置いているのですが、集中して仕事をしたいときは、15分を意識すると効果的です。

 最近面白かったのは、オンライン会議で、上司が冗談を言ったり、雑談をすると生産性が上がるという研究結果の話です。オンライン会議では、用件のみがサクサク進むから効率がいい、会議の無駄がなくなったという話もある一方で、雑談がなくなって息苦しい、会議の中からアイデアが生まれなくなったという声もよく聞きます。高い集中力を長時間持続できる人は存在せず、緩急をつけることが重要なんですね。

アルコールにご用心

 在宅勤務が続く人の中には、仕事とプライベートの切り替えに苦しんでいる人もいると思います。これもやはり時間を区切ること。いつでも仕事ができる環境だからといって、ダラダラ仕事をせず、メリハリをつける。夕食を食べたら一切仕事をしない、メールも見ないというようなけじめが必要です。

 休憩中も「メールをチェックしないと」と思い浮かべているだけで、脳は緊張状態になります。つまり、自分は休憩しているつもりでも、脳は仕事モードのままで、過度なストレスがかかっている状態なのです。集中力を高め、生産性を上げるためには、時間の使い方を工夫して、「休むときは休む」という勇気を持つ必要があります。

 外でお酒を飲む機会が減ったという点については、「飲みに行けないストレスで、家で早くから飲むようになった」という弊害も生まれています。

 アルコールについて精神医学の立場からは、「実はストレス発散に使うのが難しい」ものだということをお伝えしなければいけません。

 ストレスを発散するために飲みに行く人も多いと思いますが、一番ダメなのは愚痴り酒。アルコールには意識レベルを低下させる作用があるので、その状態で愚痴や人の悪口を言うのは、“ネガティブ思考のトレーニング”をしていることに他なりません。酩酊状態は、ある種の催眠状態と同じですから、愚痴り酒を重ねるたびにネガティブ思考が強化され、むしろストレスがたまってしまう。上手にお酒を使うためには愚痴や悪口はなし、「楽しい」と感じる程度にとどめておくことです。

 家飲みについても、週に2日は休肝日を設けてほしいです。肝機能のためということもありますが、「1カ月を振り返って、一滴もお酒を飲まなかった日がありますか?」という問いに、「ない」と答えた人は、アルコール依存症予備軍の疑いがあります。毎日飲むということは、量にかかわらず、常に体の中にアルコールが残っているということです。アルコール依存症かどうかの境目は、社会生活に支障を来(きた)すかどうかにありますが、どこが分岐点かといわれるとなかなか難しく、ゆっくりと依存症になっていくのがこの病気の怖いところです。

〈コロナ禍が生み出したのは、不便や不安だけではない。ウイルスへのリスク評価、ワクチンに対する見方の違い、親しい人との考え方の違いなどによる「分断」も大きな社会問題になっている。意見が違う人との心の分断にどう対処したらいいのか?〉

 新型コロナウイルスの感染をコントロールするなんてことは、世界中の誰もできていないことですよね。不安や心配、いろいろな議論があるのは理解しますが、コントロールできないことを悩んでも仕方ありません。例えば「高齢の親がワクチンを受けたくないと言っている」という相談もあります。一つは、「長い年月を生きてきた親御さんの人格、意見を尊重してあげてください」ということなんです。

 コロナと同じように、自分以外の人の考え方も、コントロールできないものです。それをコントロールしようとするから思い通りにならないことに苛立ち、ストレスを感じる。言われた方もまたストレスを感じ、それが不要な分断を生む。お互いにとって何もいいことがない。みんな、他人の言動を気にしすぎていると思います。

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