目標1億円で集まったのは1400万円 朝日新聞と高野連が“寄付失敗”で気付くべきこと

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「甲子園の価値」は朝日新聞とNHKが発信し続ける「フェイクニュース」

 高校野球は「甲子園が聖地だ」という幻想に支配されている。それは侵してはならない絶対的な「伝統」と信じられているが、本当はおかしなことがたくさんある。それが表面化しなかったのは、春夏の甲子園を主催する新聞社と、放送するNHKとが、報道機関でありながら「甲子園の魅力」を伝え守ることばかりに精励し、つまり美辞麗句で飾り、球児たちの日常的な悩みや問題点を積極的に話題にしてこなかったからだ。日本高野連も現場の指導者たちも様々な現実を認識しながらも、すべては甲子園の価値を優先する思考で無視・放置し続けてきた。

 夏の甲子園をめぐる大々的な報道は、もしや「壮大なフェイクニュースではないか?」と考えてみた方がいい。新聞も中継も、現状維持、汗と涙と感動路線でしか高校野球を報じない。

 甲子園には遠く及ばなかった高校球児たちが、どんな悩みを抱え、どんな葛藤と向き合っているのかということや、人生の進路や目標を見つけられずに悶々としている現状には光を当てない。

 国民がこぞって高校生の野球に熱狂する日本社会は、果たして健全と言えるだろうか?

 高校年代のスター選手の大半が、プロ野球では活躍できないことは誰もが知っている。それなのに、ドラフト会議をイベント化して騒ぎ立ててもいる。甲子園で活躍した選手の多くがプロで活躍できないのは「使い過ぎで壊れた」のでなく、「成長が早かっただけ」「野球という競技は身体ができてからが本当の勝負」「だから高校時代の成績を過大に評価してはいけない」という冷静な現実を世間に伝えることにもメディアは消極的だ。それが「甲子園の魅力を損なうことにつながる」という無意識の配慮のためだとしたら、「甲子園の価値」はやはりフェイクニュースでしかない。

 今夏の東京五輪で金メダルを獲った侍ジャパンを見ても、多くは20歳を過ぎて素質を開花させた選手たちだ。抑えで活躍した栗林良吏(広島)は高校、大学ではプロの眼鏡に適わず、社会人を経てようやくプロ野球に入れた「遅咲き」だ。MVP級の活躍だったと賞賛された捕手の甲斐拓也は育成ドラフト6位でプロに入った。最初の背番号は130だった。五輪には出場しなかったが今季の新人の中で際立った活躍を見せている阪神・佐藤輝明の高校時代をどれほどの日本人が知っていたか? 佐藤の高校時代、日本中を沸かせていたのは一歳下の清宮幸太郎(現・日本ハム)だった。小学生時代から身長が180センチメートル以上あった清宮は、同年代では成長の早い選手だった。成長が早いことと将来の活躍はイコールではない。それなのに、「甲子園のスターはプロ野球でもスター候補」だという幻想で話題を作り続けている。冷静に考えたら、「高校野球をそれほどスター化し、国民がこぞって見るような娯楽の対象にしてはいけない」というのが賢明な結論ではないだろうか。だが、そんな冷静さを取り戻すことをメディアが阻害している。彼らにとって甲子園は貴重な商材だから。

 親の転勤やイジメなど明確な理由がなければ、転校すると「1年間出場停止」になる。このような規則があるのは、高校スポーツでは野球だけだろう。おかしなルールではないか?

 こうした理不尽もメディアはスルーし続けている。

 高校野球は、もっと高校生主体の活動に生まれ変わった方がいい。「夏の甲子園」「春のセンバツ」をやめて、本気で考え直す時期だと、私は真剣に提案する。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月5日掲載

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