「浜ちゃん」大ピンチ? BPOが“痛みを伴う笑い”を審議でバラエティー番組に激震
バラエティー受難の歴史
「浜田さんといえば、ビンタやツッコミのイメージが強いですからね」
8月9日放送の「ジャンクSPORTS 緊急生放送で東京五輪メダリスト集結!舞台裏を大告白SP」(フジ)でも、浜ちゃんは柔道男子60キロ級の金メダリスト・高藤直寿の後頭部をピシャリ。もっとも浜ちゃんは「メダリストですけど、すいません」と頭を下げてから叩いていたし、やられた高藤も「ありがとうございます!」と笑顔を見せていたが……。
「芸人をはじめ、俳優、アーティスト、アスリートにも、浜田さんにツッコまれて喜ぶ人は少なくありません。叩かれたくて番組に出る人もいるほど。ただ、今後はそれも叶わなくなるかもしれませんね」
テレビ局にとっては、BPOの審議入りほど恐ろしいものはないと聞くが、本当だろうか。
「かつて、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジ)の人気コーナー“七人のしりとり侍”と、『おネプ!』(テレ朝)の人気コーナー“ネプ投げ”が打ち切りになったのも、青少年委員会から検討を求められたのが原因ですからね。ことによったら、番組が打ち切りになることだってあり得るんです」
“しりとり侍”は、ナインティナインらお笑い芸人が扮する侍がしりとりを競い、負けると野武士集団にポカスカ叩かれるという企画だったが、〈暴力やイジメを助長する恐れがある〉とされた。
“ネプ投げ”は、ネプチューンの原田泰造扮する“原田大明神”が、祈願成就と称して若い女性を投げる(主に巴投げ)企画だった。このとき、女性の下着が見えることもあったため、〈のぞきを肯定しているかのよう〉と指摘された。
もっとも、これらはBPOが設置される以前のことだという。放送記者が言う。
「BPOができたのは03年ですが、青少年委員会はそれ以前の2000年4月に設置されました。BPO同様、青少年委員会も、NHKと民放連が自主的に設けた機関です。設立年の11月には早くも〈バラエティー系番組に対する見解〉を発表し、番組中の暴力表現や性描写に関してテレビ局に検討を求めました。そこでテレビ局は、“しりとり侍”はコーナー打ち切り、『おネプ!』は番組終了としたのです」
いわば、青少年委員会は設立当初からバラエティー番組を標的にしていたということか。
「そう取られても仕方がないかもしれません。07年には再度、バラエティー番組の罰ゲームにおける出演者への暴力について遺憾の意を発表し、テレビ局に改善を求めました。14年には前年末に『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時』(日テレ)で放送された、芸人がロケット花火を尻で受け止める企画が問題視され、審議対象にもなった。16年には『オール芸人お笑い謝肉祭’16秋』の中で、男性が男性の股間を触る行為が下品として、表現上の配慮を求めたこともありました」
まあ、文句を言われても仕方ないような番組もあるだろう。ただ、今回の〈痛みを伴う笑い〉も設立時から、お題目のように言ってきたことである。
「『不快に思う』『いじめを助長する』という意見が寄せられている、とは言っていますが、これは青少年委員会が毎年募集する中高生モニターの声が中心でしょう。彼らは毎月開催される委員会に出席して意見を寄せるわけですが、ホームページを見ると、6月の第235回委員会から〈痛みを伴う笑い〉はテーマとして取り上げられ、7月の委員会では討論もされました。時代の流れを考えれば、〈痛みを伴う笑い〉を議題に討論することになれば、結論は明らかではないでしょうか」
いじめに繋がる、暴力的になる、ということであろう。
「そうした意見をまとめて、〈青少年に与える影響の重大性に鑑み、審議入りを決めた〉ということなのでしょう」
“しりとり侍”“ネプ投げ”がなくなった01年、当時のバラエティースタッフが朝日新聞(01年2月22日付)で意見を述べている。まずは「天才・たけしの元気が出るテレビ」(日テレ)を演出していたテリー伊藤氏だ。
テリー:テレビはただで見られるし、朝から裸の映像が流れちゃ、だれでも生理的に嫌だ。だから自主的な規制はあって当然。でも、お笑い演出家の立場から言うと、『放送と青少年に関する委員会』の見解を受けて打ち切りになった『ネプ投げ』は、どこがまずいのかなと思う。スカートの中がちょっと見えるくらい平気、投げられる女の子自身が喜んでいるのだから。こうした表現をテレビから排除しても、インターネットなどでもっと変なことになるのでは。
――20年前の発言である。さらにこう続ける。
テリー:批判覚悟でいいますが、テレビの中より、外の世界はもっと大変。テレビに洗脳されたり、倫理観を教えてもらったりするようじゃ、世の中に出てだまされるだけ。もっとテレビをなめてかかるというか、「バカなのことやってるなー」と冷めた目を養うことも大切。100%信じることなんかないよ、テレビも活字も。
――日テレで「マジカル頭脳パワー」など多くのヒット番組を手がけた五味一男氏は、
五味:自分も含め、今の親の世代は子どものころ、クレージーキャッツやコント55号の番組を見たはずだ。洗面器で殴ったり、飛びげりしたり、今より表現はきつかった。当時も批判を浴びたが、それでみな暴力的になっただろうか。アニメもヒーロー物も描かれる暴力シーンはフィクションだ。まねして自分がけがしたり、相手にけがさせたりしても、そこからしていいことと悪いことを学んだ面もある。そういう表現を一切見せない無菌状態の中で子どもを育てるという考え方は問題ではないか。
前出のバラエティー番組スタッフは言う。
「企画や番組が“アウト!”と言われたら、次の笑い、演出を考えるのみです。リアクション芸だってなくなるとは思えませんので、逆手にとって新たな笑いを作りますよ。不快、不愉快といったクレームは、いつでも少なからずあるものです」
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