「列車が途中で立ち往生したら…」乗車前の準備は? 停電した車内では? 脱出までの時間は?

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一度に停車していた列車4本は多いのか?

 結局、停電した区間で駅間に停車した山手線の列車は3本、埼京線・湘南新宿ラインを走る埼京線の列車の1本であったことになる。駅と駅との間で立ち往生してしまったときにどうすればよいかを考えるうえで、一度に停車していた4本という列車の本数を多いととらえるか、少ないととらえるかは重要だ。率直に言って、筆者は大変多かったと考える。というのも1本の列車に乗っている人の数は膨大な数に上るからだ。

 山手線や埼京線・湘南新宿ラインで用いられている通勤電車と呼ばれる車両は、1両当たりの定員が150人前後ととても多い。そして、連結している車両の数も山手線は11両、埼京線は10両、湘南新宿ラインは大多数が15両で一部は10両とこれまたたくさんだ。つまり、駅間で停止してしまった列車の乗客を救出に行くとしても、定員どおりの混み具合であれば、1本の列車に1500人から2250人程度の乗客が車内にいることとなる。

 駅間に列車が停止してしまうと、外に出るのは一苦労だ。普段乗り降りする駅にはホームが設置されていて、車両とホームとの間に大きな高低差はない。しかし、駅と駅との間の線路にはホームはないので、JR東日本の車両であればレールから床面まで1.13メートルと、小学校のプールの深さ並みの高さを否が応でも意識させられる。さすがに飛び降りて下車する羽目には陥らないものの、航空機に乗り降りするときに利用するようなタラップ車は来てくれないし、線路際に置けもしない。扉に立てかけたはしごなどを頼りに降りることとなる。

 はしごと言うくらいだから階段のように前向きでは降りられず、後を向いて慎重に下っていかなくてはならない。しかもはしごの数も少なく、たいていは両端の運転室に備え付けられた1台ずつの2台、多くても救援に駆けつけた職員が携えたものを合わせて10台あるかといったところだ。仮に1本の列車に2000人乗っていて、5カ所の出口から脱出できることとなり、1人の乗客がはしごを下りる時間を10秒としよう。全員が外に出るまでに4000秒、つまり1時間6分余りを要するのだ。

降車誘導が終わるまでの時間は?

 JR東日本によると、駅と駅との間に停止してしまった列車から、乗客を車両の外に降ろして最寄りの駅まで誘導する降車誘導の手順は次のとおりだという。

 まず、列車が駅と駅との間のどの位置に停止し、車内に何人の乗客がいるのかを乗務員が確認する。線路脇に立てられた距離標は100メートルおきに立てられているので、10両編成で200mにもなる車両からならばどこかに見えているはずだ。近年は運転室のモニタ装置に現在の正確な位置が示される車両も増えた。

 乗客の人数を確認するのは考えるだけでも大変な手間だとわかる。何しろ乗務員は通常は運転士と車掌とが1人ずつなので、1000人以上もの乗客の数を把握するのは容易ではない。こちらは完全な手作業だ。

 列車の運行を1カ所で管理する運転指令所では乗務員と無線でのやり取りを行っている。車両に搭載された列車無線装置は停電時にも蓄電池で作動するようになっているので、すぐに列車との交信が途切れることもない。

 列車無線を通じて列車が停止している位置や乗客の数を運転指令所の指令員が把握すると、指令員は乗務員にどの駅に降車誘導すべきかを伝える。そして、各担当部署に対し、降車誘導を行うよう指示し、列車に向かわせる。今回のトラブルの場合、乗務員以外では駅員、それから設備担当の社員が担当した。今回は招集されなかったが、管理部門と呼ばれるいわゆる非現業部門の社員が駆り出されるケースもあるという。

 今回のトラブルでは、降車誘導が完了するまで3時間を要した列車もあった。「もっと早く」とは乗客の切なる願いだ。けれども、立ち往生した列車の本数や1本の列車に乗っている人の数、車両から地上に降りる手間や時間、そして駅までの誘導を考えると、1時間ではさすがに無理で、2時間以内であれば御の字かもしれない。

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