もう中、とにかく明るい安村…再評価される中堅芸人に見る「不器用さ」という才能

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「有吉の壁」が好きだ。笑いたいから見ているというより、芸人さんが一生懸命に頑張る姿が見たくて見ている。オリンピックでライバルの健闘をたたえあうスケートボード競技が話題になったが、あの精神を感じさせる番組だと思う。

 同番組で再評価されているのが、もう中学生さんやとにかく明るい安村さんだろう。もう中さんは38歳、とにかく明るい安村さんは39歳。同世代のチョコレートプラネットやパンサーらが大ブレイクして次々とレギュラーを獲得している中、相変わらず平場で体を張っている。大喜利でも当たり外れが大きい。しかし、その不器用さというのが再ブレイクの鍵なのではないかと思うのである。

 宮迫博之さんやTKO木下さん、渡部建さん……スキャンダルを起こして大炎上した売れっ子芸人に共通しているのは、「芸人以外の仕事に色気を出していたように見える」ことではないだろうか。役者の仕事も多かった宮迫さん、アパレル業もやっていた木下さん、渡部さんは言わずと知れたグルメ王である。お笑い以外も要領良くできてしまう才能の豊かさは素晴らしいが、芸事一本でやるぞという気概が見られない。だから相方へのリスペクトもなく、むしろ俺って要領いいでしょ?という印象が鼻につく。おそらくそう感じる人は少なくなく、それ見たことかと大バッシングにつながったように見えてしまった。

 一方で、もう中さんや安村さんに、要領の良さという印象は全くない。失礼だが、マジメに頑張っても頑張っても空振りする不器用さが先に立つ。ひと昔前なら、「お前、サムいよ」と切り捨てられていたことだろう。でも今は、その一生懸命さ、自身の芸にこだわりつづける一本気さこそが人気を集めているのではないだろうか。

 そして名前通り、「とにかく明るい」持ち味も魅力である。二人とも引退を考えたことがあるという苦労人だが、シニカルなトークや芸風には転ばない。コロナ禍やさまざまな炎上でギスギスしたニュースも多い中、底抜けに明るい人の存在は実に貴重で、あたたかい気持ちになる。

「平熱の低い」第7世代の存在も追い風 有吉・マツコもプッシュする存在感

 もうひとつ、第7世代のブレイクというのも実は追い風になったのではないか。体を張るロケや前のめりなトークを嫌がり、「平熱が低い」テンションとくくられがちな若手たち。第7世代の中心である四千頭身の後藤さんは、そう見られるのが悔しいとこぼしていたが、要領の良い若者たちという印象を持つ視聴者は一定数いると思われる。冷めている20代のエリートに対し、なりふり構わず頑張るアラフォーのヒラ社員。判官びいきな気質の人や、我が身を重ねる中年も多いことだろう。

 最近ではアイドルのオーディション番組も注目を集めているが、汗をかいている様子を見せる下積みストーリーはブレイクに欠かせない。手作りの段ボール芸にこだわるもう中さん、自宅をびしょびしょにしても笑いを取りに行く安村さん。失敗を恐れず、一生懸命に頑張る尊さを体現している二人である。

 ただ、そうはいっても笑いの質が低くてはブレイクしないわけで、彼らの人気を最終的に担保しているのが「あの人が推している」というお墨付きだ。もう中さんは有吉さんのラジオが再注目のきっかけになったが、「有吉の壁」でももう中ワールド全開で大暴れ。「マツコ会議」にも出演し、マツコさんもその独特な持ち味を評価していた。そのマツコさんはとにかく明るい安村さんを「ネタを見て3回は泣いた」と大絶賛。「あの有吉さんとマツコさんが推している芸人」という評判も、人気を後押ししたといえる。

 ドツキ漫才や見た目イジリ、毒舌ツッコミのブームは去り、大御所たちも丸くなった。先日は松ちゃんがウッチャンに電話して話題になったが、ライバル意識をバチバチに出してハングリーに笑いを取りにいく風潮も下火になっている。かといって冷静でスマートすぎても親しみにくい。面白さよりも体温や人の良さが重視される時代で、「不器用さ」は視聴者の心の壁をクリアする、最強のカードなのかもしれない。

冨士海ネコ

2021年9月3日掲載

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