普通の高校生が毎日50分の練習で140キロ投手に…高校野球界に革命を起こした「トレーナー」が語る“私の指導法”

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ボールを前で離すには……

 トレーニングの利点について、高島氏はこう説明する。

「自分が担当するトレーニングで大事にしているのは、まずは身体の使い方を覚えることです。加えて、筋力アップにもつながるようにウエイトで負荷をかける。身体をうまく使えるようになり、さらに出力も上がれば、重たいものを楽に挙げられるようになります。極端に言うと、1試合投げても以前より疲労しなくなる」

 トレーニングの目的は、野球のパフォーマンスをアップさせるためだ。筋量アップを図るのはあくまでプレーの質を高めるためで、主目的ではない。それゆえ高島氏の指導では、トレーニングのやり方自体も一般的なものとは変わってくる。

 逆に言えば、どうすれば野球のパフォーマンスを高められるか、突き詰めていくことが重要だ。

 例えば投手への伝統的な指導で、「ボールを前で離せ」というものがある。なぜ、リリースポイントを打者寄りにするのが大事なのか。単純に、バッターにより近いところから投げれば、それだけ相手は対応する時間が短くなるからだ。

 では、どうすればボールを前で離すことができるか。野球界では、具体的な方法論まで教えられないケースが決して少なくない。対して高島氏はどうすればできるようになるか、トレーニングに落とし込んでいく。

 その理屈を簡単に説明すると、股関節や胸郭の柔軟性が高まり、お腹がうまく回るようになることで、ボールを前で離せるようになる。足の外旋を効かし、ハムストリング、腹圧、胸部で力を生み出し、それを肩から指先にうまく伝達することでボールにより強い力を込められる。身体全体を効果的に使うことで、肘への負担が減るメリットも大きい。だからこそ、「ボールを前で離す」ことは大事だという。

ノーシードから決勝に

 昭和の時代は長時間の中で猛練習を繰り返すというスタイルが当たり前のように行われてきたが、令和の今は、いかに頭を使って合理的に取り組めるかがより重要視されてきている。そうして今年の夏に成果を出したのが、甲子園に鳥取県代表として出場した米子東や、広島大会でノーシードから初めての決勝に進出した祇園北だった。いずれも県立の進学校で、高島氏が担当したチームだ。

 ヒントが至るところに落ちている時代になり、公立高校や新興高校による“逆転”は十分に可能だと高島氏は考えている。

「大事なのはチームの人数が多いとか少ないではなく、何をすべきか、なぜそのメニューをするのか、選手自身が理解しながら進めることです。そうすれば、全然名前の知られていない学校から150キロを投げる投手がどんどん出てきても不思議ではないと思います」

 野球という日本の伝統的なスポーツで、“逆転現象”が徐々に増え始めているのは興味深い。それだけまだ、各チームや選手たちには伸びしろが残されているということだ。事実、高島氏がどのように無名選手たちを成長させているのか、意欲的な強豪私学からも問い合わせが来ているという。

 本書では「ピッチングとはどういう行為なのか」が詳しく解説されており、現場の選手や指導者に役立つことはもちろん、野球を見るのが好きな人も楽しめる一冊だ。

中島大輔
1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年からセルティックの中村俊輔を4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月3日掲載

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