最速166キロの守護神「ビエイラ」はなぜ急成長したのか【柴田勲のセブンアイズ】
3番に丸が座るのが理想
巨人が29日の中日戦に快勝し、首位の阪神が同日の広島戦に敗れ、勝率で上回り首位に立った。4月1日以来の首位で、何度も奪取のチャンスがあったが、ようやくものにした格好だ。
阪神は2位どころか3位に転落した。広島に3連敗。前回の今コラムで下位チームに足をすくわれたチームは苦しくなると記したがその通りになった。ヤクルトはいま最も勢いのあるDeNAに1勝1敗1分として2位に浮上した。
阪神の首位陥落は新人・佐藤輝明の失速も大きな要因だ。29日の広島戦に9回2死二、三塁で代打起用されたが空振り三振、これで25打席連続無安打となった。佐藤は前半戦から阪神をけん引してきた。陥落を象徴しているようだ。
巨人だって大きなことは言えない。本塁打こそ出ているものの(※1)打線につながりを欠き、タイムリー欠乏症だった。
29日の中日戦、本調子ではない丸佳浩を外し、ゼラス・ウィーラーを1番に据え、吉川尚輝を2試合連続で3番に起用、8番には松原聖弥を配した。
これが結果的に当たったが、丸を外すのはどうだろう。原辰徳監督は自軍選手の調子を重視しているようだが、相手チームが丸外しをどう捉えるかだ。なんやかんや言っても、丸は相手チームにとって実に嫌な存在だ。プレッシャーを与える。3番に丸が座っていることが理想だと思うのだが。
原監督のやり繰り、そして巨人の選手層の厚さが効いてきた。中盤までリードしていればあとは中川皓太、高梨雄平、ルビー・デラロサ、そしていまや絶対の守護神となったチアゴ・ビエイラがいる。
昨年はノーコンで見ていられなかった。だが28日の中日戦に登板し、打者3人をわずか5球で仕留め30試合連続無失点とした。これは球団新記録だ。
昨年のソフトバンクとの日本シリーズでは実力の片りんを見せていたものの、今年に入っても4月まではノーコンが直らず、ファーム落ちしていた。それがゴールデン・ウイーク明け頃からコントロールがく良くなって本来持っていた力を発揮し始めた。
コントロールが良くなった、良くなったというけど、そんなムチャクチャ良くなったワケではない。変化球、タテ目のスライダーというか小さなカーブを習得したのが大きい。
このまま抑えでいくのがベスト
ビエイラは8月13日の中日戦で代打・アリエル・マルティネスへの7球目に166キロをマークした。NPB最速だ。
160キロを超える真っすぐが投げられるのだから、あとはもう真ん中低めを狙っていけばいい。これでOKだ。外角低め、内角高めへの制球力なんて考えなくていい。
打者は基本的に真っすぐに照準を合わせ、1、2の、3で振りにいくが、160キロのボールをそうそう打てるものではない。打者を追い込んだら今度は変化球だ。お手上げだ。
ビエイラ、昨年の来日時は体重が130キロあったという。現在は110キロちょっとだとか。身体を絞ったこともいい方向に出たのかもしれない。それに練習をしっかりやると聞く。急成長にはマジメな性格もあるのだろう。
2018年、メジャーでは16試合に登板して1勝1敗1S、19年は6試合で1勝をマークしている(※2)。先発の経験もあるようだが、もちろんこのまま抑えでいくのがベストだと思う。長いイニングとなると話はまた別で、先発転向ならまだデラロサの方がいいのではないか。制球が悪くない。
ビエイラにとって嫌なのは言うまでもなく四球、四球の連発だが、いまのところその心配はない。真ん中低めがすべてだ。連続試合無失点の記録を積み上げてほしい。
心配なのは菅野智之だ。26日の広島戦に56日ぶりに復帰登板したが、6回を被安打6で5失点、自身初の4連敗で5敗目を喫した。1回には鈴木誠也、坂倉将吾に2者連続弾、6回には菊池涼介にも一発を浴びた。
何度も今コラムで指摘しているが、投手の基本は外角低めの真っすぐにある。これがあってこそ、スライダー、フォーク、カーブなどの変化球が生きる。
だが95球中、納得できる外角低めの真っすぐは2、3球しかなかった。外角へ投げても打者のベルト近辺で高い。相手は真ん中から外のボールを捨てて、甘くなったスライダーを狙っていた。とにかく低めへのコントロールが悪かった。これまでの経験を生かした投球術、そして菅野の顔というか格でかわしていたが結果は出なかった。
菅野だけではなく山口俊にも言える。戸郷翔征、畠世周、高橋優貴らもいいものを持っているのだが外角低めへの意識が足りない。打者が嫌がることを考えた投球が必要だ。
31日からはヤクルトとの3連戦(岐阜・長良川球場、京セラドーム)、そして甲子園に乗り込んで阪神3連戦だ。勝負の9月がやってきた。巨人の戦いとともに、菅野の本格復活を期待して見守りたい。
※1 本塁打127本は12球団トップ(8月30日現在)。
※2 17年8月、ブラジル出身選手としては史上4人目のメジャーデビューを果たす。