WHOは中国離れでも…米国は「武漢ウイルス研究所」流出説に中途半端な幕引き
WHOの「中国離れ」
パンデミック初期に「中国寄り」との批判を浴びたWHOだが、このところ「中国離れ」が急速に進んでいる。2003年のSARS流行時にWHOから隠蔽体質を厳しく追及され「煮え湯」を飲まされた中国はその後、WHOへの積極的な工作を行い「対中迎合」化を進めてきた(8月19日付ワシントン・ポスト)。だがバイデン大統領の前述の調査指示を契機に、WHOの行動には大きな変化が見られる。
その象徴的な出来事が、今年2月に実施されたWHO武漢調査団の団長を務めたエンバレク氏の爆弾発言である。エンバレク氏は12日、母国デンマークのテレビ局のインタビューで、こう暴露した。
「中国側の圧力を受けたために『武漢研究所流出説の可能性は極めて低い』と結論づけた」
また、WHOは中国への第2次調査を提案しているが、中国側はこれを拒否している。
中国が米国の研究所などへの調査を求めていることについても、WHOは25日、
「中国の研究所からウイルスが流出したという仮説に根拠がないとする一方で、他国の研究所から流出の可能性を調べる必要があるとの中国の主張は矛盾している」
と反論している。WHOはさらに調査の妨げになっている「政治化」を防ぐため、新たな専門家グループの立ち上げ作業を進めている。WHOの一連の動きを見て、バイデン政権も「米国のみが中国の矢面に立つ必要はない」と考えたのかもしれないが、WHOだけでは新型コロナウイルスの起源解明は覚束ない。
筆者は、「米情報機関が武漢ウイルス研究所の膨大なデータをハッキングにより入手した」という事実(8月6日付CNN)に注目している。まさに「宝の山」を入手したわけだが、分析作業には時間を要するため今回の報告書の内容にはその成果は含まれていない。情報機関は分析作業をインテリジェンス・コミュニテイー傘下の研究所に委託している。その分析は、昨年5月、「研究所流出説が妥当である」とする非公表の報告書を作成したエネルギー省所管のローレンス・リバモア国立研究所が中心的な役割を果たしていると考えられる。
同研究所は生物学に関する専門知識が豊富なことで知られており、年内にも研究所流出説を決定づける証拠が発表されることを期待したい。
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