“限界”夏の甲子園 雨天順延に謎のルール、資金不足…高野連は改革できるか
コロナ禍で2年ぶりの開催となった夏の甲子園。例年以上に夏の甲子園が抱える“問題点”が噴出した大会だったことは間違いないだろう。
「継続試合」を議論
まず、大きな問題となったのが日程だ。当初は9日から25日までの予定で、休養日も3日間設けるとされていた。しかしながら、史上最多となる7度の雨天順延によって決勝戦は29日まで後ろ倒しとなり、休養日も2日間が削られてしまった。
また、8月12日の明桜対帯広農戦、同19日の近江対日大東北戦は、いずれも試合成立となる7回の前に雨が強くなりノーゲーム。同17日の大阪桐蔭対東海大菅生は、8回表の途中でコールドゲームとなったものの、5回以降は、土砂降りでグランドは田んぼのような状態となり、とても野球ができるコンディションではなかった。
近年、地方大会と甲子園大会が行われる7月から8月は集中豪雨が増えている。雨天順延に悩まされるのは、もちろん今年に限った話ではない。日本高野連の小倉好正事務局長は、こうした事態を受けて、試合の成立条件を満たしていない段階でプレーを止めて、後日その試合の続きを行う「継続試合」をこれまでも議論しており、今後も話し合いを進めていくことを明らかにした。投手を守るために設定された「1週間500球」という球数制限を踏まえても、すぐにでも導入に踏み切るべきだろう。
長年、高校野球関係者に疑問視されながら、なかなか改善されない点もある。ベンチ入り人数の問題だ。現在、夏の地方大会では、1チームあたりのベンチ入りは20人(※春季大会、秋季大会はそれ以上の都道府県もある)であるが、甲子園大会になると18人に減らされてしまう。「人数を削る作業が最も苦しい」と話す監督も多いが、それは当然のことだ。いまいち人数を減らされてしまう根拠が明確になっておらず、「謎のルール」と暗に批判する高校野球関係者もいる。
今年の夏の甲子園に出場した49の代表校は、半数以上の31校が70人を超える部員を抱えている。しかし、これだけの部員数がいても、前述したように、地方大会では20人、甲子園大会では18人しかベンチ入りできないため、3年間で一度も公式戦に出場することなく、高校野球を終える選手も少なくない。
ちなみに、今年は史上初めて高校女子野球の決勝戦が甲子園で行われたが、こちらはベンチ入り人数が25人だ。多くの選手にプレーの機会を与え、炎天下や雨天でプレーする選手への負担を減らすために、男子もベンチ入り人数を増やすことを検討すべきではないだろうか。
リターンのアイディアがない
そして、最大の問題が大会の運営資金である。日本高野連は、甲子園大会が無観客となり、財源となる入場料収入が見込めないことから、7月28日に朝日新聞が運営するサービスを利用して、クラウドファンディングを実施することを発表した。目標金額1億円。しかし、達成率はわずか1割台(8月27日時点)にとどまっており、はっきり言って芳しくない。
ホームページをみると、支援に対するリターン(出資した支援者へのお礼)は、金額にかかわらず、「クラウドファンディングサイトへの名前掲載、感謝のお手紙、寄附金受領証明書」となっており、すべて同じだ。これでは、クラウドファンディングというより“単なる寄付のお願い”と言った方が適切だろう。
仮に、クラウドファンディングで運営資金を集めるならば、リターンとして「始球式の権利」、「応援メッセージの映像を上映する権利」、「大会で使用したボール」、「全試合の公式スコア」などを設定すると、今のやり方より遥かに多くの金額が集まってくるだろう。
なぜ、一般的なクラウドファンディングでは、当たり前というべきリターンのアイディアが出てこないのだろうか。それは「高校野球、高校球児を使って金儲けをすることはけしからん」という古くからの考え方が蔓延っているからではないだろうか。
日本高野連の行動指針となる日本学生野球憲章には、「学生野球は、学生野球、野球部または部員を政治的あるいは商業的に利用しない」とあるが、大会と組織の運営資金を寄付に頼る必要があるという状況は、どう考えても健全ではない。高野連の目的である「高等学校野球の健全な発達に寄与すること」を実現させるためにも、体質改善は必要不可欠だろう。
ただ、これだけの問題が起こったことは、逆に言えば改革のチャンスともいえる。様々な問題に対して、日本高野連がスピーディーに改革策を打ち出して、より良い高校野球、甲子園大会になっていくことを望みたい。