江川、ダルビッシュ、桑田&清原… 夏の甲子園で“雨に泣かされた”スター選手たち

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3試合目はKKコンビが臨んだ決勝戦

 3試合目は雨で迎えた決勝戦、84年の第66回大会の取手二(茨城)対PL学園(大阪)の一戦である。このときのPLは桑田真澄・清原和博(ともに元・読売など)の“KKコンビ”が、2年生ながら投打の主軸として君臨し、優勝候補の大本命だった。前年夏の優勝に続く2連覇を狙っていた。

 対する取手二も“東の横綱”という評価で“打倒・PL”を狙える戦力とされていた。それでも下馬評はPLが断然有利。それを覆す要因となったのが、この日朝から降り続いた雨だった。雨の影響で一時は試合中止の決定が下されたのだが、そこから一転、決行となった。開始時間も二転三転。その影響もあってか、PLのエース・桑田はウォーミングアップが万全ではなかった。その立ち上がりを取手二打線がとらえたのだ。1回表、2死二塁のチャンスを作ると、4番の桑原淳也が甘く入った速球をセンター前に弾き返す。次の瞬間だった。この打球を捕球しようとしたセンター・鈴木英之がトンネルしてしまったのだ。雨で濡れた芝生に滑ったボールが、バウンドせずに急加速したのが原因だった。これで打者走者の桑原も本塁に生還、取手二がいきなり2点を先制したのであった。

 その裏、2点を追いかけるPLは2死二塁のチャンス。ここで4番・清原は取手二のエース・石田文樹(元・横浜)の外角初球を鮮やかに流し打ちし、打球はポールを巻いて入ったかと思われた。だが、判定はファウル。球場全体にもやがかかり、視界が悪く、見ようによっては入っていると思われたほど微妙な一打だった。このあとPLは2死満塁とするも、後続が抑えられ、無得点に終わってしまう。この同点のチャンスを逃したことが、PLに大きくのしかかった。

 試合はこの後、取手二が4-1とリードし、終盤8回裏に突入していた。この回、PLは2本の長短打と相手エラーで2点を返し、1点差に迫った。9回裏には先頭の1番・清水哲が起死回生の同点本塁打を放ってついに同点に追いつく粘りをみせている。

 逆に同点に追いつかれた取手二の石田は動揺していた。続く2番・松本康宏に死球を与えてしまったのだ。このピンチに、取手二の監督・木内幸男は実に老獪な作戦を繰り出す。3番の左打者・鈴木に対してライトを守っていたサイドスローの“変則左腕”柏葉勝己をワンポイントリリーフに起用したのだ。鈴木は送りバントを試みるが、雨で荒れたグラウンドの影響を受け、単なる捕ゴロとなってしまった。一塁走者はアウトとなり、送りバントは失敗。1死一塁となり、ここで再び石田がマウンドへ。この間に冷静さを取り戻していた石田は4番の清原を三振、5番の桑田を三ゴロに打ち取る。この瞬間、試合の結末は見えていた。

 ピンチを脱した取手二は延長10回表、1死一、二塁のチャンスで5番の中島彰一が桑田の160球目を渾身の“大根切り”。すると打球は左中間スタンドに飛び込む勝ち越し3点本塁打となり、雌雄を決することとなった。さらに力尽きた桑田からもう1点を追加すると、その裏、PLにはもう反撃する余力は残されていなかった。こうして“最強の王者”は4-8で取手二に屈したのである。

 こうして深紅の大優勝旗は初めて茨城県に渡ることとなった。勝負のポイントは、この日の天候が左右したといえる1回表裏の運・不運の攻防がすべてだったのかもしれない。

上杉純也

デイリー新潮取材班編集

2021年8月29日掲載

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