不倫の末に離婚したら、今度は元妻と不倫関係に… 疲れた表情でつぶやいた男性の心境
義父の死をきっかけに再会
だがあまりに拙速だったと久人さんは言う。しばらくは新婚気分だったが、娘の言葉がどんどん体の中で重くなっていく。ヒナコさんとはよく一緒にキッチンに立って料理をしたが、ユリエさんは料理をする気がない。それ以前に、食べることに対する欲がほとんどないのだ。
「ヒナコと僕は、高級なものではなくていいから一緒に作って食べるのが好きだった。家族で外食すると、娘がよく『今度はこれ作ってよ』と言うんです。ヒナコと顔を見合わせて、このスパイスは何だろうねとか、隠し味に何か入ってるよねとか言いながら、次は自宅で試作してみるのが楽しかった。ユリエとは共通点があまりなくて」
それでも「家族を悲しませてまで一緒にいるのだから、楽しく過ごさなくてはならない」と自分に言い聞かせた。そんなふうに思ったことのないシンプルな人生を送ってきたはずなのに……。
ユリエさんと一緒になって1年近くたったころ、ヒナコさんから連絡があった。
「ヒナコのお父さんが亡くなったと。岳父は僕をすごくかわいがってくれたんです。離婚したとき挨拶もできなかったから気にはなっていた。お通夜に行ってもいいかと聞いたら、ヒナコがいいよと言ってくれて」
お通夜の席で1年ぶりに会った妻は、なぜか非常に美しく見えた。隣に座っている娘は彼と視線を合わせようともしなかった。駅まで送っていくとヒナコさんは言い、一緒に歩いた。ヒナコとだと歩調が合うと久人さんは思ったという。
「猛烈にヒナコがほしいと思いました。頭がおかしいと思われるかもしれないのを承知で、暗がりにヒナコを引っ張っていって抱きしめました。ヒナコはお父さん子だったから、気持ちが弱っていたんでしょう、しがみついてきて。そのまま駅の近くのホテルにヒナコを押し込めるように連れていって……」
何をやっているんだ、オレはと久人さんは思ったが、自分に正直に動くしかなかった。あれから1年、久人さんはヒナコさんとたまに会っている。娘には内緒だ。
「不倫して離婚した僕が、今度は元妻と会っている。近いうち、ユリエとは別れるつもりです。ユリエも必死になってつかみとった結婚だったけど、理想とは違うと思っているのがわかるだけに、早く解放したほうがいいと思うんです。ヒナコと結婚することにならなくてもいいけど、やはり僕にはヒナコしかいないとわかった」
ただ、ヒナコさんも同じ気持ちかどうかはわからない。そして娘に知られたときの反応も怖いと彼は言う。
「一度、きちんと人生をゼロに戻さないといけない。そこからヒナコや娘ときちんと向き合わないと。本当にオレってバカだなと自分でも思います」
自嘲気味に言う久人さんだが、ヒナコさんと娘のことを語るとき、彼の表情は柔らかくなる。“女”にくらくらと来て突っ走った久人さん、だが心許せるのはやはり“同志”だったようだ。
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