自宅療養者になった場合にできること 血栓を防ぐ方法、家族との過ごし方は
血栓を防ぐためにすること
訪問看護の豊富な経験を持つ藤田さんは、
「元気なうちに、ポカリスエット等の飲料、食料品、市販の解熱鎮痛剤、体温計、パルスオキシメーター、血圧計を常備してください」
とアドバイスするが、そうした一つひとつを細かく見ていきたい。
「自宅療養者がパルスオキシメーターで数値を測ることは非常に大切です。病院でもこれを見ながら診察に当たります」
と、矢野医師が説く。
「熱があろうがせきが出ようが、酸素飽和度が96以上あれば安心です。逆に本人は平気そうでも、93以下になると心配で、50歳以上でワクチン未完了の場合、93以下は入院しないとまずいような数値です。もし自宅療養中に93になったら、少しおいてもう一度測ってください。96以上が1回でも出れば、大きなほうの数値を信用してもらって大丈夫ですが、複数回測っても数値が低ければ、保健所からもらった緊急の連絡先にすぐ電話してください」
ただし、パルスオキシメーターで測る際に、気をつけるべきことがある。
「アルコールで手指を消毒した直後は、血管が収縮して数値が低く出やすいので、しばらくして、手が温まった状態で測るようにしてください。時間を決め、こまめに測ることも大切。数値が下がっても自覚症状がない場合も多いので、3時間に1度、定期的に測ることが大切です」(同)
寺嶋教授が追加する。
「少し動いたあとで計測することも勧めます。じっとしていたり、ずっと寝たきりだったりした場合、本当は肺に問題があるのに、96以上の数値になることがあるのです。また万一、パルスオキシメーターがない場合は、階段を上るなどの日常動作のあと、いつもより息切れしないか、などを観察することで、異常に気づけると思います」
また、「療養」だから安静にすべきだと思いがちだが、実は逆だ、と矢野医師。
「新型コロナに感染すると、血栓ができやすくなり、いわゆるエコノミー症候群になる危険性が増します。ですから、たとえ熱があっても酸素飽和度が安定しているかぎり、家のなかを歩き回ったり、階段を上り下りしたり、軽い筋トレをしたりと、積極的に足を動かし、肺機能をキープすることを心がけてください」
そこに寺嶋教授は、
「脱水になると血液が固まりやすいので、しっかり水分を補給しましょう」
と加えるが、矢野医師も強調する。
「水分をよくとって循環血液量を保つことが、エコノミー症候群を防ぐことにつながります。自宅療養者から連絡をもらった医療従事者が気にするのも、水分がとれているかどうかで、水が飲めない場合は、入院になる可能性が高いです」
自宅療養者は、ほかにどんな健康観察が必要か。
「1日2回、朝晩に体温を測り、せきや息苦しさがないかどうか確認する。熱や頭痛などの症状がつらければ、普段飲んでいる市販の風邪薬、カロナールやロキソニン、イブA錠などを飲んでも問題ありません」
と角田副会長。寺嶋教授も、同様の解熱剤やせき止め、整腸剤などを用意しておくことを勧めつつ、
「重症化する人は4、5日以上熱が続くことが多いですが、最初から解熱剤に頼りすぎると、熱がどのくらい続いているか、計測が難しくなりかねません」
と注意を促す。また一人暮らしの場合は、
「毎日1、2回は、ビデオ通話などで家族に連絡しましょう。顔色、肩で息をしていないかなど、ビデオのほうが変化はわかりやすく、スマホは必携です」
と寺嶋教授。ただ、一人暮らしであれば、経過観察以前に、備蓄が必要だ。
「感染前から1~2週間分の飲料、食料を買い置きし、消費しながらまた買い足すことを勧めます。シリアルなど、普段から食べられるものがいいでしょう。療養中に足りなければ、友人や家族に買ってきてもらい、ドアノブにかけておいてもらう手もあります」(同)
また、角田副会長は、
「宅配サービスを利用するのもいい。受け渡しをする際は、マスクをして手指を消毒し、短時間でスムーズに行ってください」
最低1メートルあければ家族とも
家族と同居している場合、陽性者と家族は、なにをどう気をつけるべきか。角田副会長が説明する。
「ご家族に感染者が出たら、その人と部屋を分けるのが第一。住宅事情でそれが無理なら、2メートル以上あけてカーテンなどで仕切ります。そして患者さんの部屋も、ご家族が生活している部屋も、1時間に1回ほど換気しましょう。患者さんもご家族も、家のなかでもマスクを着用し、頻繁に手洗いしてください。特に患者さんの部屋を出たあとなどは、手指を念入りに消毒してください」
トイレについては、
「複数あれば一つを患者さん専用にします。共用の場合は換気扇などで換気を心がけ、患者さんの使用後は、アルコールや薄めた漂白剤を染み込ませたティッシュ等で、患者さんが触りやすい便座や流水レバー、ドアノブなどを消毒します。入浴は患者さんが最後になるようにします。また、掃除は過度にしなくてもいいですが、ドアノブやスイッチはアルコールで拭くといい。患者さんの洋服などは、ご家族のものと一緒に洗って構いませんが、唾液や鼻水にはウイルスが潜んでいるので、患者さんの部屋のゴミは、しっかり密閉して捨てるのがポイントです」
とはいえ、家族が感染者とまったく接触してはいけないわけでもないという。
「患者さんが家族のいるリビングに来る際には、しっかりマスクをしてもらう必要があります。ただ、マスクをしたままなら、たがいが短時間接触しても、大きな問題はありません」
矢野医師が加えて言う。
「マスクをしていても感染者はほかの家族と、常に最低1メートル、できれば1・5メートルの距離をあけて過ごしてください。食事の際は、逐一消毒する必要はないものの、時間はずらすほうがいい」
食事に関しては、寺嶋教授がこう補う。
「たとえば、家族がドアノブの前に置き、立ち去ってから感染者が受け取るなど、なるべく接触を控えたほうが好ましいです」
加えるなら、家族も朝晩に体温を測ったほうがいい。
ところで、自宅療養者の最大の懸念材料は、治療薬がないことだ。ウイルスを抑える飲み薬を手元に置ければいいが、まだ望めない。話題のイベルメクチンはどうか。オノダクリニックのおの田徹院長は、
「予防、ウイルスの複製抑制、サイトカイン抑制の効果があり、私は100人程度に処方し、9割ほどの人は症状が回復しました」
と語るが、留保もつける。
「確立された医療ではないので、インフォームドコンセントをとったうえで、既往症や体質など患者さんの全体像を把握し、一人ひとりオーダーメイドするような気持ちで処方し、その後、経過を見て用量を調整する場合もあります。ですから、イベルメクチンを飲んでいれば大丈夫、という安易な考えは持たないでほしい」
角田副会長も、東京都医師会として早期の承認を後押ししていると語りながら、現在は供給量が少ないと強調する。かかりつけ医に処方の有無を確認する価値はあるだろうが、それに期待するより、屋内で動き、水分をとり、健康観察を欠かさないことが先だろう。
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