【徴用工訴訟】三菱重工の債権差し押さえを認めるも、「取引相手は三菱重工ではない」と驚きの展開に
差し押さえはどうなる?
戦時中、三菱重工業の軍需工場で女子勤労挺身隊員として働いた韓国人ら4人が同社に損害賠償を求めた訴訟で、韓国の最高裁に当たる大法院は1人あたり約750万~1400万円を支払うよう命じた。2018年11月のことだ。その後、三菱重工は賠償に応じず、原告側は裁判所に同社の債権差し押さえを申請していた。そして今月18日、裁判所が、韓国の機械メーカー・LSエムトロンが三菱に支払う商品代金のうち約8000万円の差し押さえを認めたことが明らかになったのだが、「実際の取引相手は三菱重工ではない」という驚きの申し入れが当の韓国メーカー側から浮上したのだ。
裁判所の判断を受け、原告の弁護団は「三菱が判決に従い、賠償金を支払うとともに歴史的事実の認定および謝罪を求める」とした上で、もし拒否する場合は裁判所の判断に基づき、韓国の機械メーカー・LSエムトロンから取り立てる意向を示している。
今回対象となった約8000万円は、2018年に大法院判決で下された原告4人の損害賠償金とそれに対する遅延損害金、執行費用などを合わせた金額だ。差し押さえ命令が下されたのは、LSエムトロンにトラクターエンジンなどの部品が納品された後に三菱重工業側に支払う代金である。
しかし、コトはすんなり進みそうにない。ここにきてLSエムトロンは、取引相手が三菱重工ではなく、グループ会社の「三菱重工エンジンシステム」だと明らかにしたのだ。今後、裁判所に陳述書を提出する予定で、それが事実と認められれば、今回の支払い命令の効力はなくなるものと見られる。企業名の確認など、「基本のキ」であり、裁判所の怠慢ではないのか。
社名が長く、書類上の体裁を整えるため
企業名を取り違えたかもしれない問題について、地元メディアは「公示内容とマスコミの報道などを元に決定を下した」と、裁判所のコメントを報じている。徴用工問題や慰安婦問題など、国民感情や日韓関係を考慮しながら判決を二転三転させてきた韓国司法の体たらくが、改めて白日のもとにさらされたということかもしれない。
日本が韓国に対し輸出厳格化措置を講じた2019年のこと。これに反発した韓国民らは日本製品不買運動を行ったわけだが、この時も、三菱鉛筆韓国販売株式会社などのグループ傘下外企業にまで確認の問い合せがかなりあり、当時の従業員は「正直、仕事どころではありませんでした」と振り返る。迷惑な話だが、コトを起こすなら確認するのは常識だろう。
もちろん企業側の落ち度も拭えない。このような問題が生じた背景には、“公示が誤って記載された可能性”があるからだ。2021年3月9日付のLSグループの事業報告書を見ると、LSエムトロンの主要取引先に“三菱重工業 他多数”と記載されている。
三菱重工業は言うまでもなくガスタービン、原子力エネルギーなどの大規模な発電やエンジン事業の取り扱いはあるが、LSエムトロンが主とする農業機械のエンジンの取り扱いはない。主要取引先でないかもしれないのに、三菱重工業が事業報告書になぜ登場したかというと、「企業名が長い場合には、省略して開示することが慣行だったから」だそうだ。韓国では、「三菱重工業エンジンシステム」という社名が長く、書類上の体裁を整えるために「三菱重工業」と記述するのが常識というわけだ。
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