「小松政夫」が生前明かした「ショーケン」との喧嘩、「樹木希林」との友情

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 昨年12月、鬼籍に入った小松政夫は死の数カ月前までロングインタビューに応じていた。公の場における「最後の言葉」を聞き取った人物が、テレビの黄金時代を支えた喜劇人ならではの逸話を明かしてくれた。

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 この7月に出版された『小松政夫 遺言』(青志社)では、小松の師匠・植木等をはじめ、高倉健や吉永小百合、伊東四朗にタモリなど、多岐にわたる著名人との秘話が綴られている。

 中でも、意外な素顔が幾度も紹介されるのはショーケンこと萩原健一だ。倉本聰原案のドラマ「前略おふくろ様」で、萩原は老舗料亭で働く主人公の新米板前を演じ、小松は先輩板前役として共演。軽妙なアドリブを交える小松に激怒するショーケンに対し、「やるか、この野郎!」「外へ出ろ!」といった調子で、喧嘩となってしまったというのだ。

「小松さんは喧嘩が強く、あの安岡力也氏と揉めた時に、靴の踵(かかと)の部分で相手の脛(すね)を叩いて追い払い、一緒にいた内田裕也氏はそそくさと退散してしまったという話もしていました」

 そう振り返るのは、同書の著者として小松に向き合った作家の小菅宏氏。

「小松さんは主役を張る萩原氏と何度も共演して、脇役の立場で向き合うわけですけど、臆したりするようなところはなかった。小松さんは『芸人と呼ばれたくない。自分はあくまで喜劇役者だ』と仰っていて、自らの立ち位置を守るスタンスを貫いた。小松さんにとって笑いと哀愁は表裏一体で、哀愁のない笑いは本物ではないし、笑いのない哀愁だけ強調しても人間ではない、というのが信念。喜劇を軽く見られたくない、との想いは言葉の端々に感じましたね」

 そんな小松はショーケンのことを口にする際、時折、苦々しい表情を見せたと小菅氏が振り返る。

「小松さんは悪口を言うのは本意じゃない、という趣旨のことを述べていた。あくまで当時のエピソードを通じ共演者の人間性を紹介したかったんだと思います。本にするなら『萩原氏が単に独りよがりな男に見えないようにしてくれ』と注文されたのも、小松さんならではの配慮でした」

「全部、喋った」

 ある種の“覚悟”を持ちカメラの前に立った小松と意気投合したのは、彼より一足先にこの世を去った「あの女優」だった。

「樹木希林さんと小松さんは盟友の間柄。演技の質は違いましたが人間的にはウマが合ったようで、彼女の一挙手一投足はすごく気にしていた。最初、小松さんは彼女の演技について『凝った芝居をしすぎる』と感じたこともあったようですが、後年になって『樹木希林の芝居は本物だ』と認めるようになったと仰っていました」(同)

 二人が出演したドラマ「時間ですよ」では、樹木が後輩の浅田美代子に演技をつける目的で、本気で横っ面を張り倒して2メートルほど吹っ飛ばしたそうだ。

「休憩時間に、希林さんは小松さんを赤坂の蕎麦屋に誘って、『私たちは視聴者に舐められたらおしまい』と言ったそうです。それからは浅田さんもより本気になって演技に取り組むようになった、という話もしてくれました」(同)

 小松と小菅氏の対話は、昨年9月から10月中旬にかけて都合5回。昼から夕方6時過ぎまで、ぶっ続けで話を聞くこともあったが、自身が病魔に侵されていることへの説明はなかった。

「小松さんは11月に入院をされて、12月7日に肝細胞がんで亡くなります。つまりは入院される丁度1カ月前まで、小松さんは私に一所懸命、これまでの来(こ)し方を語ってくれていたことになります。ご自身の寿命を察知されていたからだろうと思います」

 小松が小菅氏に遺(のこ)した言葉は「あ~あ、知っていること、喋りたいことを全部、喋った。これでお仕舞い」だったという。

週刊新潮 2021年8月12・19日号掲載

ワイド特集「ゴールデンスコア」より

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