「フジロック」で記者は見た 東京ナンバーの車が大挙、“酒ナシ”でも“密”に踊る若者たち

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河原で水遊びする家族連れ

 次に屋台エリアを回ってみた。酒類は一切売っていない。みなソフトドリンク片手に、ラーメンや丼、ピザなどを食べている。30代で毎年フジロックに来ているという女性二人組に声をかけると、「こんなに人が少ないのは初めて」と教えてくれた。

「普段はどこも長蛇の列ですよ。トイレなんか10分以上待つのが当たり前です。もちろん目当ての外タレはいませんが、ゆったりフェスを楽しめるんで、来て良かったと思っています」

 主催者側の発表によれば、20日午後5時の時点で入場者は約1万2000人。例年の半分以下だという。

 女性にコロナ感染は怖くないかと聞くと、笑いながらこう答えた。

「もうワクチン2回打っているんで大丈夫かなと。自粛ばかりではストレスが溜まってしまいますからね」

 周囲を見渡し気になったのは、家族連れが多いことだ。ベビーカーに幼児を乗せている大人が目につく。会場内にはシーソーやブランコなど子供が遊べる施設も充実しており、河原では子供に水着を着せて水遊びさせている家族もいた。現在、ニュースでは子供の感染者急増が伝えられているが、気に留めている親たちは少なそうだった。

アバウトな「ソーシャルディスタンス」

 午後3時過ぎ、「グリーンステージ」と呼ばれるメインステージに行くと、人気バンド「くるり」が演奏の最中だった。ステージに近づくと、足元に黄色い印が釘付けされているのに気づく。ソーシャルディスタンスの印だ。だが、一般的な距離よりも心なしか短い感じがする。1メートル程度か。ここに立つようにとスタッフから注意されることもない。

 だが、先ほど出会った“フジロッカー”に言わせると、

「普段は後ろの人の汗が付着するくらい、ステージ前は客同士が密着している状態です。今年はルールを意識しているほうだと思いますよ」

 確かに、歓声をあげる客はいない。拍手だけだ。観客は体を揺らしながら、制限の中で音楽を楽しんでいるようにも見えた。

 だが、屋根付きのステージである「レッドマーキー」を覗くと、印象が一変した。暗い会場内では激しいビートが鳴り響いている。足元の印は見えず、前方はぎゅうぎゅう詰めだ。「The Bawdies」という若者に人気のロックバンドがギターをかき鳴らしながら、観客を煽っている。

「みなさん! 大きな花火を打ち上げましょう!」

 ボーカルがそう叫ぶと、「せーの」で観客がジャンプ。「さぁもう一度!」。何度も煽り続けるボーカル。客は声を出していない。だが、息は切れ切れだ。

準備体操をし出した女性

 午後7時からメインステージで開かれた「MAN WITH A MISSION」のライブは、開始前から異様な雰囲気に包まれていた。モッシュピットは観客ですし詰め状態。入場制限をしているが、黄色い印に沿って入れているようには到底見えない。係員に聞いてみると、

「人が多すぎると本部から指示が入ります。特に数えているわけではありません」

 ふと横を見ると、準備体操を始める若い女性が……。やがて狼の被り物を被ったバンドメンバーたちがステージに入ってくると、ボルテージは一気に最高潮に上り詰めた。

「お前ら、空に飛び上がることくらい許されているんだろ!」

 観客は大喜びだ。もはやソーシャルディスタンスもへったくれもない。前の人にぶつからんばかりに手を振り上げ、飛び上がり続ける観客たち。横にいる女性はマスクをつけてはいるが、明らかに歌っていた。全身を使って踊り出す中年男性までも……。

 こうして観客たちの熱狂は、夜更けまで続くのであった。22日まで続くというこの宴。「助かる命が救えない」。医療従事者の悲痛な叫びは、ここには届きそうにない。

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