「孤独のグルメ」「お耳に合いましたら。」「ひねくれ女のボッチ飯」「シェフは名探偵」…テレ東メシ系ドラマをどう見るか?

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 グルメ系、砕けた言い方ならメシ系のドラマと言えばなぜかテレ東というくらい、集中して作られている。テレビ評論家・吉田潮氏の評価とは?

 飲食店がひどい目に遭っている。感染対策はもちろんのこと、時短営業に酒類提供禁止。東京都は支援金や協力金をちらつかせて脅しをかける割に、支給はのらりくらりと遅延しているらしい。窮状を報道する番組はあるものの、逆に「不謹慎警察」から無駄な批判を集めてしまうことも。「とにかく飲食店を応援したい」。そんな純粋な気持ちをもっているのは、テレ東だけかもしれない。なぜなら今夏、メシ系ドラマを乱発しているから。もちろん「無難」「置きに行った感」は否めないけれど、各々に「メシ」だけではない見どころがある。駆け足で紹介しておく。

 まずは、淡々とした健啖家健在、おなじみの「孤独のグルメ」(金曜深夜放送)だ。9年目でシーズン9、もはや長寿番組の域に到達。食欲に忠実な主人公・井之頭五郎を演じ続ける、というか、とにかく黙々ともりもり食べ続ける松重豊のおかげだ。

 他のドラマでは銀髪の役が増えた松重だが、五郎のときは設定に合わせて真っ黒に。つうか、五郎は何歳設定だったっけ……? そう、このドラマでは五郎の背景がほとんど見えてこない。個人の輸入雑貨商でどんな小さなオーダーにもこたえ、全国各地へまめに足を運ぶ。約束や期日をきっちり守るし、礼儀正しくソフトな人あたり。酒は飲まない、タバコもやめた。メシはきっちり完食、甘味も大好き。ランチで数千円使っても懐が痛くない独身。以上。

 書き出してみても、ドラマにあるまじき人物情報の乏しさではあるが、逆にそれがいい。余計な感情移入をせず、料理に集中できる。ゴローさんを人それぞれの妄想で埋めて愛でる。ちなみに私の妄想は「寝るときは畳にお布団派、パジャマの裾はズボンにインのゴローさん」である。

「チェンメシ」がテーマ

 また、いけすかない店ではなく、実に庶民的な店をチョイスするところ、「え、そんなにイケる?」と驚くほどがっつり食べるところ、脳内解説は饒舌かつ表現力豊かだが、実際には黙々と食べきるところ、パフェなどのスイーツも臆することなく堪能するところは好感がもてる。

 個人的には、原作者の久住昌之氏のコーナーも好き。酒飲みは、下戸のゴローさんにちょっと歯がゆさを覚えがち。そこをカバーするのがクスミさんというわけだ。ただ、コロナになって、今は酒を飲めず……。早くクスミさんが麦ジュースを飲める日が来るのを願うばかり。

 お次は、伊藤万理華主演の「お耳に合いましたら。」(木曜深夜放送)である。チェーン展開の飲食店のいわゆる「チェンメシ」がテーマだ。漬物会社の社員がポッドキャストで愛するチェンメシを語る。「好き」に向かう原動力を、仕事のモチベーションや生活の知恵、人間関係のシフトチェンジに役立てていく。メシ系というよりは、ひとりの女の幸せ倍増計画といったところか。

 チェンメシがうまそうとか、チェンメシに関するうんちくがすごいとか、ではない。伊藤が演じる、ちょっと不器用な高村美園が前向きになれるヒントを次々に会得していく姿が愛おしい。一種のロールプレイングゲームのような感覚もある。人間関係のべたつかない距離感もちょうどいいし、セリフひとつひとつがちゃんと面白いのよ。

 松屋、餃子の王将、富士そば、フライングガーデン、くら寿司、ジョナサン…振り向けばそこにあるチェンメシを、日常の悩みや憂さにうまくからめていく展開には膝を打つ。しかもテイクアウトして家で食べるってところがコロナ時代を反映(店舗は妄想の背景として登場する)。

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