事件現場清掃人は見た 服毒自殺した「50代男性」の部屋で感じた“屈辱と反省”

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屈辱の雑巾がけ

 高江洲氏は一瞬、ムッとしたが、すぐに思い直した。

「確かにその通りです。この現場の日当は3万円でした。当時の私は、特殊清掃のノウハウもないので、雑巾で汚れを拭き取るしかありませんでした。今だったらそんなことはしません。脂とタンパク質を含んだ体液を水を含んだ雑巾で拭くと、逆に体液の染みが広がっていくだけです。本来は、特殊な薬剤を散布して細菌を死滅させて死臭を消し、その後、汚れをヘラで削り取っていきます。その時は、雑巾で拭く方法しか思いつかなかったのです」

 床に転がっている無数の虫の死骸は、掃除機で吸い取った。

「男性が亡くなった肘掛け椅子は、体液や血液、糞尿までが椅子のスポンジに染み込み、さらに、床に大きな塊をつくっていました。その塊から、無数のうじ虫が這い出した跡が放射状に広がっていました」

 うじ虫の跡を端から丁寧に拭き取っていき、赤黒くかたまった汚れを雑巾でこそげ落とすように拭いていったという。

「赤黒いかたまりは、一見乾いているようですが、雑巾でかたまりの表面を崩すと中からドロリとした液体が出てきて、さらに強烈な臭いを放ちました。私は、喉の奥からこみあげてくるものをグッと抑えながら、バケツで汚れた雑巾をゆすぎ、トイレに流すという作業を繰り返しました」

 高江洲氏は、こみ上げてくる吐き気を我慢することができなかったという。

「なんで俺は……こんな仕事をしているんだろうと、悔しくて涙があふれました。自分が惨めで情けなく、こんな姿は誰にも見られたくないと心底思いました。ただ、引き受けた仕事は最後までやるのがプロです。その当時は、その思いだけで仕事を続けました。今思い出しても恥ずかしく、屈辱的な現場でした。その時は自分の力不足を実感し、特殊清掃を本格的に研究し始めたんです」

デイリー新潮取材班

2021年8月19日掲載

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